第13話 寺に来て二年の歳月が流れた

 合気道は無心になり、その道を極める。海の波に身体を預けて浮く、時には砂浜はバランスと足腰を鍛えられる。自然の応用は合気道に適しているかも知れない。

 修行とは云え、若い二人には疲れなど感じない事だろう。そしてこの修行が、どれほど身を守ってくれる事だろうか。今はそれを知る由もなかった。やがて海岸を走る、若い二人を赤い夕日が染めて行く。

 あれから時々、小夜子が座禅の組む場所に訪れた。勿論、健の座禅を邪魔するような時間には現れない。武道をたしなむ人間は心得ていた。

 その日課が二年もの間、まったく変わることがなく続いて行った。

 西堂寺に来てから健は、公の場には一切出ようとしなかった。極力、華々しい世界には顔を出さないように勤めて来た。それと元々、そんな場所は苦手のようだったが。


 やがて堀内健は二十三才になっていた。小夜子も大学を卒業して務めに出るようになって二十四歳となり。既に健は小夜子も舌を巻く腕前となり、その合気道も小夜子から要山和尚へと師匠が代わっていた。

 健は今日も要山師匠と相対していた。武道は特に礼に始まり礼に終わる。

そして共に正座して静かに立ち上がる。健は自然体で構え、力を抜き師匠を見え据える。健は師匠の襟を取りにいった。師匠は左手の甲で交わす。その手が蛇のように絡まり関節部分に流れるように動く、次の瞬間、健の身体は一回転していた。

同時に右腕の関節を決められて動けなくなった。恐るべし、要山和尚。

 その師匠の合気道術(横面打ち四方投げ表技)であった。

 他にも(正面打ち第一教座り技裏)などと合気道の技に、裏と表とがある。

柔道と違い合気道の技の名前が長いのが特徴である。

 関節技も合気道の特長である。護身術には関節と云う力が余り必要としない技がある。女性でも相手の力を利用する技があるから、かなり護身術には有効な手段と言えよう。


 そんな毎日の稽古に健は、最高の喜びを感じていた。

「お父さん、どう? 健くん上達したでしょう」小夜子は父に訊ねた。

「うん、心もだいぶ明るくなったし、すごい上達ぶりだ」

 要山和尚も、その成長振りを認めて微笑んだ。

 健の上達ぶりは他の門弟達も舌を巻く程の腕前になった。

合気道でも大先輩の佐田義則や山本裕一でさえ、もう互角以上に戦えるまでに成長していたのだ。


 遠くで小夜子の母・登美子の声がする。誰か来客らしい。

また例の「盛田開発」の連中だろうか? ゴルフ場建設の為に立ち退きを迫られている。父も母も本当に困っているようだが、小夜子には何も話してはくれない。

だが、その招かれざる客とは違うようだ。


つづく

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