第5話 要山和尚と対面
健は噂では聞いた事がある合気道だが、まさかここでやっているとは知らなかった。離れの生家から本堂までの間に長い廊下があり、先ほど垣間見た日本庭園が見えてきた。
古い廊下で軋んでいるが、佐田は物音一つ立てずに進んでいく。まるで空港など使われて居る動く歩道エスカレーターに乗っているように、スゥーと進んで行くのだ。
日本庭園には、敷き詰めた真っ白な小石がきれいに整列され、その向こうに池が見える。竹の筒から水が流れ落ちて、そして水が満ちた時、コット~ンと心地よい音が響いた。
「要山師匠、お客さまです。あとは私が代わります」
佐田からそう言われた要山師匠、つまり住職でもあるが。「頼む」と言って代わった。
いきさつは健の恩師、吉田教授の手紙にしたためて送られている、教授の計らいだ。これから此処で期限なしで世話になるが和尚は全てを承知で引き受けたのである。
正堂寺の住職。要山和尚はただならぬオーラを発していた。
とても五十八歳と思えない体型で、体操の選手のようにスラリとしている。
「まあ座りなさい。君が堀内健くんだね。教授の吉田君から詳しく聞いたが、彼はこの地元の出身でね。君のことを心配して私に相談があったのだよ。まあ、そう云う縁だ」
健は要山和尚と、その隣の妻であろうか、先ほど出迎えてくれた婦人と大きな座卓を挟んで、健がここに来る事になった経緯を和尚は語ってくれた。
「まあ、その事故の事は忘れろとは言わんが、しかし余り自分を責めてもいかん。自分がこれから、どう生きるべきか、この寺で考える事だ。わしで分からん事は、この妻の登紀子に、なんなりと尋ねなさい」
健は改めて和尚の妻の登紀子に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「登紀子です。東北は初めてだと訊いていますが、時間はたっぷりありますので。あまり思い詰めないで、和尚に言われた事を、キチンとやってくださいね」
健の傷の深さを知ってか、暖かさと厳しさのこもった言葉が感じられた。
つづく
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