09.予兆 3

「赤毛の女の子?」

 ナートが人を待つのは日没前までだ。赤く染まる空と雲を見上げながら、リアノスはアミシャと共にムカガの家を出た。

「そう。十三、四歳くらいで、身長はアミシャよりちょっと低い。俺は見たことがない子だったが、アミシャは心当たりはあるか?」

 アミシャはうーんと首をひねる。

「キィハ……は、リアノスも知ってるよね。じゃあ、モラノ……はまだちっちゃいか」

 それからもうんうんうなって心当たりを記憶の中から探し出そうとしていたが、それ以上は名前が出てこなかった。

「赤毛の子が、どうかしたの?」

 不思議そうな顔をするアミシャに、リアノスは自分が見た一部始終を話した。

「少しだけ、気になったんだ。でもナートは全然気にしていなかったし、俺が気にしすぎなのかもしれない」

「……リアノスは、昔からまじめだよね。わたしが眠っている間も、毎日欠かさず訪ねてきてくれて、今は毎日ナートのそばにいる」

「急に、なんだよ」

「毎日そばにいて見守っているから、ちょっとしたことでも気になるのかなって思ったの。まじめだから、ちょっとしたことでも見逃せない」

「……要するに、気にしすぎだと言いたいのか」

 そう言われるかもしれないと思って、ムカガ達には赤毛の少女のことは伝えなかったのだ。

「そうじゃないよ。今は、ナートを一番心配できる人は、リアノスだと思う。ムカガさんもウルスタさんも――わたしも、ナートに願いを叶えてもらったから、彼の力に頼りたい人たちに何も言えないし、心配して、もう誰の願いを叶えなくてもいいとも言えないから」

「アミシャ……」

「ナートは、自分のことを諦めてる。封印される前は、あの力を人にさんざん利用されていたみたいなの。……ティサの中だけで、収まるかな?」

 不安そうな顔で見上げてくるアミシャに、リアノスは大丈夫だと気休めも言えなかった。

 この里は辺鄙なところで、隣の里も遠いが、世の中と完全に切り離されているわけでもない。出入りをする商人はいるし、ティサの者が商売で外へ行くこともある。ティサの奥には〈災いの元〉が封印されていたことも、近隣に住む者ならば、たぶん知っているだろう。

 なにより、人の口に戸は立てられない。

「――願いを聞てもらいたい人は、もうだいたい訪ねてきてるだろう。外で待つ必要はないと、明日、ナートに言うよ」

 赤毛の少女の存在が、小さな気がかりから大きな心配へと膨らみつつあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る