01.代替わり 3

 百年ぶりの代替わりの日が訪れても、青年は決して目覚めないのではないか、とリアノスは密かに思っていた。あるいは、願っていた。

 アミシャと幾度となく青年を訪ねたが、いつ行っても、彼はその前と変わらず眠り続けていたのだ。膝の上に置かれた指先の位置すら変わらない。

 その姿を見ているうち、青年がこの先も眠り続けるのではないかと、少しでも頭をよぎるのは仕方ないことだろう。

 もちろん、そんなことはなかった。

 代替わりは果たされ、百年ぶりに目覚めた青年に代わり、速やかにアミシャが眠りについたのだった。

 あれから、十年。長いようにも、短いようにも感じる。

 ほとんど変わらないアミシャの姿を見ると、十年の時など感じない。

 けれど、リアノスは十年分の歳を取った。もはや少年と呼べず、変わらぬ姿のアミシャと離れていく一方の今の姿を見ると、時の流れと役目の無情さを感じずにはいられなかった。

 それでも、眠り続けるアミシャと同じように、変わらないものはある。彼女と約束したように、毎日訪ね、名を呼び、語りかけている。

「そろそろフスの実の収穫だよ。アミシャはフスの実が好きだったよな。収穫を終えたら、いちばんいい出来のを持ってくるから、楽しみにしててくれ」

 祭壇に捧げものをし、封印役が変わらぬことを確かめる。それが、リアノスの――志願してなった守人の役目だった。

 ここは、ティサの住人であっても、気軽に立ち入ってよい場所ではない。アミシャの家族でさえ、許されるのは年に一度。

 けれど封印の守人ならば、その役目のために毎日に訪れることができる。他の誰よりも、自分が務めるべきだと思った。

 やめた方がいい、あるいは、長くは続けない方がいい。周囲の者達はそう言った。リアノスとアミシャの仲は誰もが知るところであり、皆が、リアノスを心配して言っているのだと分かってはいた。変わらぬ、そして目覚めぬアミシャを見守り続けるのは、リアノスにとって辛いばかりだろう、と。

 確かに、辛い時はある。だけど、ここにくればアミシャがいるのだ。リアノスとの約束を信じ、眠りについたアミシャが。

 彼女が目覚める時、リアノスは約束を違えなかったと伝えてもらうため、己の役目を果たすのだ。

「じゃあ、また明日」

 捧げものを取り替え、簡単に掃除を済ませると、アミシャに声をかけた。

 もちろん、寝顔に変化はない。けれど、アミシャならばきっと、夢の中で「また明日ね」と笑顔で応じてくれているだろう。

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