後ろにいた
神木駿
後ろ
今日は月が綺麗だ。
中秋の名月っていうみたい。
月が空から私を照らしてくれる。
夜道を歩くのはちょっと怖いけど、月明かりがこんなに照らしてくれているなら少しだけ怖さが紛れる。
私の履いているヒールがコツコツと音を鳴らす。
私の足音ではないもう一つの足音も聞こえる。
帰り道が一緒なのかな?
私は気にせずに足を進めた。
少し進むと奇妙な感覚に襲われた。
一定の距離でずっと足音がついてくる。
初めに聞こえた場所からその音は、全く同じ大きさで聞こえている。
可怪しい。
私は歩く速度を速めた。
速めたはずなのに、ずっと同じ大きさで聞こえる。
メトロノームのように狂うことのない正確なリズムを刻むその音に、私の耳は狂いそうになる。
私は走り出す。
とにかくこの場から離れなくちゃ。
私が走っても走っても、その足音は後ろをついてくる。
どうしようもなく私は怖くなった。
背筋がピンと伸び、夏なのに冷たい風が頬をなでた気がした。
はやく……はやく……
あれ?私はどこを走っているの?
気がつくと見たことのない場所に私はいた。
そこは住宅街だけれど、いつもの帰り道には無い家が沢山建っている。
どうしよう……どうしよう……
私は友達に電話した。
ねぇ!私、今どこにいるの?
私がそう言うと電話の向こうからは
よるにろいうし
と聞こえてきた。
私はすぐに耳を離して、通話を切る。
電話越しに聞こえてきた声は友達の声じゃない。
待ってよ!何よこれ?!
私は今起きていることが何なのか理解出来ていない。
耳には足音がずっと鳴っている。
周りの景色は見たことのない景色が広がるばかり。
どうしようもなくなった私は、意を決して後ろを見ることにした。
今も聞こえている音は一定の距離で、一定のリズムを保ったまま、私の耳に入り込む。
私は心のなかでカウントダウンを始めた。
3、2、1
私は後ろを振り向く。
その瞬間、音は消え、辺りはいつもの景色に戻った。
ホッとした私はまた前を歩きだそうとした。
「ねぇ、うしろにいるよ」
私が驚く暇もなく、目の前が真っ暗になった。
後ろにいた 神木駿 @kamikishun05
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