第4話 切望

「あんたの幼稚園からの友達で柊斗君っていたでしょ?」


「ああ、あいつがどうかしたの?」


「ついさっき事故に遭って病院に運ばれたって…」


「えっ!?」


 さっきって…学校終わってすぐってことか?


「あの子もだし、お母さんとも仲良くさせてもらってるからね…。心配だしちょっと行ってくるわ。あんたもなにもなければ来なさい」


「うん…」


 昼休みに下らないゲーム論で言い合いしたばっかりだ。

 信じられない…。一体何があったんだ…?

 大丈夫だろうな…?

 まさか…あんな後味の悪い口論が最後の別れになんて…ならないよね?



 エントランスで柊斗のお母さんと合流した。


「「集中治療室!?」」


「そうなの…。もう祈る以外なんにもできなくて…。一命を取り留められるかどうかも分からないみたい…。浩紀君…いままであの子と仲良くしてくれて、ありがとうね…」


 お母さん…いまにも倒れそうな蒼い顔してる。


「そ、そんなこと言わないでください!柊斗ならきっと大丈夫ですっ!」


 僕には今何ができるだろう…。

 ただの男子高校生にできることなんて…

 そうだ…、もし…昨日の出来事が夢でないのなら…。

 あの女神様にまたお願いできたら…。

 きっと人の命だって助けてくれるだろう。


「ちょっと、浩紀、どこ行くの?」


「ごめん…お手洗い」



 病院の屋上。

 降り出した雨のせいで誰もいない。

 傘を開き、できるだけ出入り扉から離れる。 

 昨晩と同じように目を閉じて誰にともなく祈ってみる。

 眩い光の中、昨日の女神様は現れた。


「あら…どうしました?またデータを消してしまったのですか?」


「いえ…今度は、もっと大変なことになってしまって…」


「お話を聞かせてくださいますか?」


 柊斗の状況を伝える。


「分かりました…。昨晩と同じく、あなたの大切なものを差し出していただければ…、善処いたします」


 温かい声…。この女神様は決して悪い存在ではない。直感でそう思う。

 でも昨日のことはやっぱり気になるな。


「あの…昨日の夜、そこらじゅうの自転車がなくなったのって…」


「ええ…あなたの望みと引き換えにです…」


「やっぱり…。言葉は慎重に選ばないといけないんですね?」


「そうです…。額面通りに物事が起こってしまいます。私も注意喚起できず…申し訳ありません…」 


「……」


「お友達の命がかかっています…。選択は急がれた方がいいかもしれません…」


 今度は人に迷惑のかからないものにするべきだ。

 おそらく地球上の室内保管以外の自転車全てが僕のセーブデータ復活のために失われたはずだ…。

 申し訳ない気分でいっぱいだ…。

 焦って通勤通学したあげく、命を落とした人だって必ず一人か二人はいる…。

 そう考えると恐ろしい…。

 僕のせいだ。僕がゲームさえしていなければ…。


「決めました。僕の…ゲームを楽しむ時間を差し出します」


「分かりました…。本当にそれで構わないのですね?」


「はい。構いません。あの、今度は誰にも迷惑なんてかかりませんよね?」


「心配には及びません。では…。お友達の命に…幸運の降り注がんことを…!!」


 再び目の前が白く覆われること数秒、もとの屋上の景色が広がった。


「柊斗…大丈夫だろうな…」


 信じてはいるのだけど、どこか半信半疑で不安な気持ちで階段を下りた。

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