NO.5 破天荒

その煙の奥で


少女は酒場から外へ出て、


酒場を後にした。


その少女は、


肩にかかるか、かからないかの


微妙な長さの髪であった。


髪は暗い色。


齢は17。


身長は160cmほどであった。


そして、名は――


「おい、シュレーン!」


少女がその声に振り返る。


「見つけたぞー!」


中年男性が走って近づいてくる。


その少女――シュレンの前で


その中年男性は呼吸を整える。


シュレンはその様子を目の前でじっと見ていた。


中年男性は勢いよく顔を上げ、


声を荒げて言う。


「シュレン、お前どうしてくれるんだ!」


中年男性はシュレンに顔を向けたまま、


斜め後ろを指さす。


「大窓の拭き掃除をしようとしたら、


窓が割れてたんだが!?」


シュレンはその中年男性が


指さす方へと目を向ける。


『ウィリエルの城』は


城外に向けて大きな窓が


所狭しと並んでいるのだ。


その窓の奥には闇に覆われた世界が広がっている。


シュレンは昨日


窓を割ってしまったことを思い出し、


苦い顔をして目を逸らす。


「あー……風通しがよくなったなぁ」


「シュレ――」


「いや、大丈夫!」


「何が大丈夫だって!?」


中年男性が怒り気味でそう突っかかる。


「ほら、見てよ」


シュレンはそう言って


中年男性の後ろに向けて指をさした。


その中年男性は後ろを振り返り、


風通しの良くなっている窓へと目を向ける。


すると、窓枠からじわじわと


ガラスらしきものが染み出てきていた。


中年男性は呆然と呟く。


「嘘、だろ……」


それは徐々に中央へと向かい、


窓ガラスが形成されていった。


シュレンは謎に得意げな顔で


中年男性に向けて言う。


「ほらほら」


「なんだよあれ……聞いてないぞ!」


「知らなかったとか?」


「知らねえよ!


今まで窓を突き破ったヤツなんで


お前で初めてだったからな!」


中年男性はそう言って


シュレンのほうへ目を向けたが、


彼女はそこにはいなかった。


「~~!」


中年男性はシュレンへ


声にならない怒りを表わしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る