NO.4 常連

「――ふぐっ」


一人の少女がゆっくりと体を起こす。


その少女は寝ぼけた目で周りを見回す。


耳を塞ぎたくなるほどうるさく


騒いでいる男性がそこら中にいた。


このうるささは四六時中だ。


そして、少女が先ほどまで


伏せ寝していたテーブルは


バーカウンターであった。


つまり、少女が今居る場所は


酒場である。


その現状を気にも止めず、


少女は背の高い椅子を降り、


酒場の外へと向かった。


バーカウンターに座っている


酔っぱらい気味の男性が


少女の背に目を向けた後、


バーテンダーに話しかける。


「あの子、毎日来てません?」


「はい、来ておりますよ」


細い目のバーテンダーはグラスを


念入りに拭きながらそう応える。


「料理を食べては寝て、


起きては『外』に行って、


んでまた料理を食べにココへ来る。


……ってか代金は!?」


男性はバーテンダーに食いつくようにそう訊く。


「彼女はいい食べっぷりですからね。


特別料金です」


「タダってことっすか!?


まじか……」


「……そういう意味ではないですが」


バーテンダーは困ったように眉を寄せ、


穏やかな様子でそう呟く。


男性は手元の酒をぐいっと飲み、


カウンター上に勢いよくグラスを戻す。


「良いんですかね、野放しにしておいて」


「それは私にも分かりかねます。


ですが、彼女は『少しだけ特別』と聞いておりますので」


バーテンダーは片目を開け、


酒場の扉を開く少女を見た。


「ふーん……」


男性はうつろな様子でそう反応し、


カウンターに頭を乗せると、


すぐに寝息をかいた。


バーカウンターで繰り広げられていた問答を


眺めていた細身の男性は、


煙草を片手に


扉の奥へと消えていく少女へと目を向ける。


その姿を確認すると、


目を細め、口から煙を吐いた。

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