第6話 今迫直弥を名乗る人物からのメール3
差出人:今迫直弥
件名:
返信ありがとうございます。
確かに、あの時期、○○(※大学の研究室の先輩)さんから鍋の誘いのメールがありましたね。それに参加したかどうかが、私と貴方の運命の分かれ道だった、ということですか。でも、鍋に参加して引き篭もりをやめて研究室に戻っていれば、数年後に入ってくる後輩の女の子と結婚できるなんて、そんなラブコメみたいなこと想像出来る人います? まあ、当時それを知っていたとしてもなお、私は鍋なんか行かない気もしますけど。
本をあまり読まなくなったというのは私も一緒ですね。ここ最近、同業者の知り合いの新作を除けば、今村昌弘しか読んでなかったです。腐っても作家なのにこれですからね。今の時代、読書以外にいくらでも暇を潰す方法があるんですよね。若者の活字離れとか昔から言われてましたけど、若者じゃなくても離れますよ。ちなみに私の暇つぶしは専ら、ネットTVのバラエティと、エゴサです(笑)。
ご質問の、異世界の自分へのメールの送信方法についてですが、非常に煩雑でメールの文面では伝えにくいので、他の伝達方法を検討しているところです。かなりお金がかかる上、厳密には法(ただし、貴方の絶対に想像していない類のもの)に触れるものなので、実行しようと考えているなら、今から覚悟しておいてください。
また、異世界の自分にメールしようと思った理由の方についてですが、話し相手が欲しかったというのが一番近いです。貴方にはご家族も友達もいるのかもしれないですが、私には何もいないですから。連絡をとろうと思える人がいないんですよね。出版社の人に知り合いはいますし、親族だっていますけど、そういうことでもないわけです(そもそも、姉と妹とは両親の葬式以来一回も会っておらず、登録された連絡先がまだ繋がるか怪しいです)。自分がもうすぐ死ぬという時になって、話をしておきたいと思えた人が、自分自身以外に誰もいなかったんですよね。我ながら悲しい人生です(笑)。
そんなわけで、うすうす気づいていたかもしれませんが、残念ながら私はもうすぐこの世を去ります。ありきたりですが、くれぐれも健康には気をつけた方が良いですよ。気をつけても病気になる時はなりますが。
このことは、皮肉なことに、「どうして最初のメールの時点で貴方が小説執筆を続けていないことを前提に書いていたか」ということと少しだけつながってきます。詳しい話は面倒なので避けますが、異世界の自分にテストメールを送っているときに気づきました。貴方と私以外にも世界は無数にあるわけですが、おしなべて、執筆を続けた○○(※私の本名)は、大体、もう生きていないんですね。
貴方にだって、たぶん思い当たる節があるんじゃないですか? 希死念慮が強い方なので、10の世界があったら、その内3つくらいの世界の自分は死んでいそうじゃないですか? あの2005年の8月3日に、首を括ることに成功した世界線も普通にありそうじゃないですか?
私は、書くのをやめて真人間に戻るか、書き続けて奇跡的に大成功するか、それ以外の方法で生きていないタイプの人間なんですね。デビューできないまま今迫直弥をこじらせると、遅かれ早かれ死んでしまうんですね。おそらくですが、自らそうしてしまうわけです。奇しくも、私も死ぬので、こう言って差し支えないと思います。
「世界には生きている○○(※私の本名)か、死んでいる今迫直弥しかいない」
たぶん、次が最後のメールになります。
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