第3話 岩田20001について

 書き手の皆さんにはわかっていただけると思うし、小説を書いたことがない人も容易に想像がつくと思うが、どんなにつまらない作品になってしまったとしても、自分で書いた小説に対しては「情」のようなものが湧くし、何かしらの思い入れが湧く。執筆に至る背景から、書くのに苦労したシーン、一番の見どころなど、語ろうと思えばいくらでも語ることが出来る。読み手としては、作品の内容は作品内の要素だけで完結させ、それだけで評価するべきだと考える人もいるし、設定の裏話なんかを知ることでより作品が楽しめると考える人もいる。別にどうでもいいと考える人もいる。

 私はここでこれから、少なくともこの世界において身内を含めて数人しか読んだことがなく、その全員からそこそこの評価しかもらっていない自身の作品について、力強く、その舞台裏まで語ろうと思っている。誰からも必要とされていないために、私にしか出来ない。

 作品のタイトルは「岩田20001」という。誤字ではない。「いわた・にまんいち」である。1999年から2001年くらいまで、100年ぶりに世紀をまたぐという記念すべき時代であったためか、世間は浮かれており、当時斜に構えた学生だった私は、「100年後も同じように新世紀だのなんだのとやって騒いでいるのだろうか」などと憂い、その行き過ぎた形として、年号の桁が変わった18000年後の世界を描くことに決めた。

 2001年の1月、『201世紀が始まった』という書き出しで始まる短編作品「岩田20001」が完成した。当時、作品タイトルに年号を入れたものが結構あったように記憶していて(一番有名なのはHitomi の大ヒット曲「LOVE2000」だろうか)、それに倣った形である。なお、岩田は主人公の苗字で、これについても語ると長いので詳細は省略する。

 短編作品「岩田20001」のコンセプトは非常にはっきりしていて、ゼルガやフィルガ、ユルトルバルザッティ8など、未来では当たり前のものという設定の謎の造語を乱発し、状況の想像しにくいわけのわからない世界の中で、それでも男女の甘酸っぱい恋愛模様だけは変わりませんね、という代物である。狙いは悪くないと思う。

 この短編を第一章に据え、岩田達が、祖父の経験した「マオウハント」の謎に迫ろうとするうちに、201世紀の世界の真相にたどり着いてしまう変格ミステリーが長編作品「岩田20001」である。最初は全く意味の分からなかった謎の造語が、いくつかの情報から徐々に秩序を獲得していき、作者が造語を思い付かなくなったことも相まって、後半になるにつれわからない単語がどんどん減っていくため、どんどん読みやすくなるという構造になっている。また、無駄に論理性にこだわった謎解きのシーンで必要となる知識が201世紀基準であるため現代人には解けなかったり、作者の思いつきで序盤に出ていた謎の造語が急に伏線だったことになったりといったアクロバティックな展開と、コメディタッチで描かれていたはずなのに壮絶過ぎる真相など、読めばそれなりに面白いところはある。さらに、無個性な主人公の岩田を取り巻く個性豊かな仲間達が岩田を軸とした五角関係の恋愛模様を構築しているなど、ライトノベルに必要なキャラ萌え要素も抑えている(余談だが、私が人生で一番気に入っている男性キャラクター「鳩々山」は、短い割に絶対に被らない唯一無二の名称であることもあって、ゲームの主人公名やハンドルネーム、カクヨムのユーザーIDを決める局面などで今でも重宝している)。

 私が「ワナビ」だった頃のライトノベルは、小説賞の応募作でデビューした後、第二作としてその続編を書いている例が多かったので、私もその作法に則り、「完結しているけれど続編があるに違いない」と想像させる作品づくりを心がけていた。「岩田20001」に至っては、(あえて正確な引用を避けるが)「この時手に入れたダイヤモンドが二人の運命を大きく変えることになるのだが、それはまた別の話である」みたいな、露骨な続編の匂わせがある。当然、私自身は具体的なエピソードを考えたことはない。「岩田20001」は、電撃ゲーム小説大賞(現電撃小説大賞)の一次審査を通過したことで、私に小説執筆上の初めての成功体験を与えてくれたが、だからといって、賞レースにおいて「次はその続編で勝負だ」と考えられるような代物でなく、究極の飛び道具、一発屋の類だったので、続きを書くことはおろか、その内容を考えることすらしなかった。

 長くなったが、要するにこの世界に「岩田シリーズ」というシリーズ作品は存在しない。何度か書き直し、別の新人賞に応募するために長くなったり短くなったりした様々なバージョンの「岩田20001」があるだけだ。私が「岩田20001」で面白がって構築した五角関係の恋の行方は、私にだってわからない……そのはずだった。

 第一作「岩田20001」を筆頭に、スピンオフも合わせて15年間で22作品が出ているという架空の世界のことを、私はうまく想像できない。

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