第21話 強硬手段
「ここが例の新聞社ね」
私達が住む街のとある一角に、その新聞社は存在していた。
灯台下暗し。
まさかこんなに身近に元凶が潜んでいたなんて。
「あとはネインが来るだけですね」
「そうね」
ネインにはレクターへ、いくつか伝言を頼んでいる。
一つ、聖女になったことがきっかけで、私には邪悪なものが見えるようになってしまったこと。
一つ、婚約破棄の記事にそれが見えること。
一つ、その記事を掲載しているのが、この新聞社であるということ。
察しのいい彼なら、これらの情報を与えれば、私達が何を始めようとしているか分かってくれるはずだ。
逆に心労で倒れるかもしれないけど、まあそこはそれで。
「あ、お嬢様。ネインが来たみたいですよ」
「お待たせしました」
ネインがぺこりと頭を下げる。
「レクターは?」
「『分かった』と一言だけ」
「じゃあ大丈夫そうね」
あとはもうこっちの仕事次第。
「では行きましょう。何が待ってるか分からないから、みんな警戒してね」
私は気合いを入れて歩き出す。
いよいよ復讐劇の始まりだ。
===
「何も……起こらなかったですね」
「……そうね」
結論から言うと、あっさり責任者の元まで辿り着いた。
もっと難航するかと思っていたけれど、拍子抜けするほど簡単だったのだ。
まず新聞社に入る。それから受付の女性に用件を伝える。すると応接室へと案内され、そこで待つように言われる。
そして今に至る。
「というか、これ普通の企業訪問ですよね」
「……そうね」
本当に拍子抜けした。
少々手荒いことになるかもしれないと思っていた私の気持ちはなんだったのだろう。
万が一に備えて一緒について来て貰ったジュネとネインという戦闘要員は、今や完全にただの従者に成り下がっている。
うん、間違いではないけれど。
「お待たせいたしました」
そうこう考えているうちに、お目当ての人物がやってきた。
扉が開かれ、中年の男性が入ってくる。
どうやら彼が責任者らしい。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。私が当新聞社の責任者ビッチェ・イグザムです」
「初めまして。私はフォミール家の長女、セイラ・フォミールです」
互いに軽い挨拶を交わす。
「さっそくだけど本題に入らせてもらってもいいかしら?」
「えぇどうぞ」
彼は余裕のある笑みを浮かべている。
こちらが何を言いたいのか分かっているような顔だ。
「単刀直入に言うわ。最近立て続けに起こっている婚約破棄はあなたの新聞社の記事が原因ね」
「……はて、何を言いますやら。たかが新聞記事ですよ? 真実を広める効果はあっても、事件を起こす効果などあるわけがありません」
……あくまでしらを切るつもりなのだろうか。
「そうですか……。あなたがそんな態度を取るなら、こちらもそれなりの対応を取らせて頂きますよ?」
「ほう、どのような?」
「そうね、この新聞社を買収しようかしら」
私はにこやかに彼に告げた。
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