第22話 本性
「買収……ですか?」
「えぇ。だってそれが一番早いでしょう?」
発行元さえ無ければそもそも記事も出ないのだから。
「……」
彼は黙り込む。
そして次の瞬間――。
「ふ……はははははは!」
豹変したように笑いだした。
「なるほど、買収。買収ですか」
突然の出来事に私達は唖然とする。
一体何がおかしいというだろうのか。
「いいでしょう。どうぞご自由に買収なさってください」
「……随分と余裕なのね」
「ええ。だって、そうしたところで全ては無駄に終わるのですから」
「無駄ですって?」
「そうですよ。ここを手放したとしても、この私が存在する限り、記事は生まれ続けるのです」
「!」
つまりそれは、この男をどうにかしなければ意味が無いということか。
「人は実に単純だ。幸せが大きければ大きい程、反面、その不幸に惹かれてしまう」
男は饒舌になる。
「セイラ様、お分かりですか? これは私一人の問題ではない。求めているのですよ、国民が!」
まるで演説をするかのように両手を広げる。
「この国全ての人間が! 更なる悲劇を求めているのです!!」
彼の叫び声が部屋に響き渡る。
「だから私はここを失っても、痛くもかゆくも無いのです」
「……そう」
私は静かに目を瞑る。
この男の真の正体がようやくはっきりと見えた気がしたからだ。
「ジュネ」
「はい」
「ネインさん」
「はい」
二人の名前を呼んで、私は目を開ける。
「は。一体何をするおつもりで? ここは単なる新聞社。手荒い真似は自信の首を絞めますよ」
「そうね。だから私はあなたに命令する」
「命令? 何を馬鹿な……うぐっ」
突然、彼は苦しみ出した。
額には汗が滲んでいる。
無理もない。
今私は、『あの力』を使っているのだから。
相手を意のままに操る命令の力。
「なんだこれは。くそっ、やめろ!」
抵抗するビッチェ。しかし……。
「おっと、交渉が終わっていないのに部屋から出るのはルール違反では?」
「ひっ」
ジュネの投げナイフが彼の行く手の地面に突き刺さった。
「申し訳ございません。そのままそちらでお待ちください」
「なっ」
今度はネインの魔法陣が彼の足を地面へと縫い付けた。
結局彼は、逃げることも出来ずに怯えたように私を見つめた。
「や、やめろ、やめてくれ……」
「残念だけど、もう遅いわ」
私は一歩ずつ彼に近づいていく。
「く、来るなぁああああっ!!!!」
絶叫に近い悲鳴を上げる彼。
そんな彼を前にして私はゆっくりと口を開いた。
「命令するわ。あなたは二度と記事を書かないで」
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