第18話 続行、君も聖女になろう。

 

 翌日。


「聖女になる……ね」

 

 私は部屋の壁に貼った紙をじっと眺めていた。


 婚約破棄作戦の一つ目、レクターに新たな女性をあてがう事。

 これはまあ成功した。


 二つ目、私に新たな男性を用意する。

 これは失敗に終わったけど、結果、それには代えられない大きな成果を得た。


 けれど次はどうしたらいいものか。


「レクター様の言葉を借りるなら、これまでの作戦で順調に目的に近づいているだろうって話ですけど」


 安易に婚約破棄が出来なくなった今、次に取れる手段はこれまでの作戦を引き続き行っていくこと。

 本来が婚約破棄をスムーズに成功させる作戦なんだから、間違いって訳じゃないんだろうけど。


 私はその紙の下段に書いてある自分で綴った文字を眺め、ほうっとため息を漏らした。

 

「これ、本当に婚約破棄に関係あるのよね?」

「ありますとも」


 自分で書いてなんだけど、聖女という言葉にいまいち実感を持てない私は、その大本の提言者であるジュネに話を振った。


「婚約破棄からの、実は聖女だったからの、お家崩壊、に繋がっていくんです。つまり聖女は婚約破棄に欠かせない要素」


 聖女というのは、彼女曰くよく分からないけど凄い力の持ち主らしい。

 聖女が出て行ったことで、その家や国が亡んだり不幸な目に遭うそうだ。

 

「……ま、本当にそれが重要な要因になるかは分かりませんけど、無いよりはマシってやつですね」

「そうよね」


 明確に次の手が浮かばない以上、この方向でやっていくしかないだろう。


「で、聖女ってどうやってなるの?」



===



「は、馬鹿だろ?」

「うちにこんな場所があったなんて……」


 ところ変わって、ここはレクターの住む屋敷の地下。

 ただっぴろくて真っ白な部屋の真ん中に、ぽつんと寂しく台座が一つ。


「えー……ここにある聖なる剣を手にすることによって、聖女になれると考えます」

「絶対違う」


 聖女になる方法。

 それは、聖なる剣を手にすることだった……ジュネ曰く。

 私も絶対に違うと思う。


「大体どうしてレクター様の従者でもないお前がこんな場所を知ってるんだよ」

「俺すらうちにこんな場所があるなんて知らなかったのに何故?」


 二人が驚くのも無理はない。

 ここにたどり着くために、私達は色々と冒険を挟んだ。

 図書室の棚の後ろに隠し階段を見つけたり、ロウソクを順番に灯して通路を出現させたり。話は省くけど、とりあえずまるで異界の冒険者のような行動を私達は取ったのだ。


「時々、ネインに成りすましているので」

「はぁ!?」

「えっ」

「えっ」


 ……双子の特権をこんなところで使ってはいけないと思う。

 でも確かに、私が知りたくても知ることが出来ないようなレクターの情報を、持ってたりするなとは思ってた。まさか、そんなことやっていたとは。


「レクター……なんかごめんなさい」

「いや……いいよ。ジュネ…………次からは許可を取ってからにしようか」

「了解しました」


「そんなこと言わずに、クビにしてくださいよ。こいつ」

  

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