第17話 婚約破棄の途中でした
溢れた涙を綺麗に拭って、私はみんなの前に立った。
「復活しました」
「おかえりなさい」
レクターが笑って出迎える。
私はぴっと腰に手を当てた。
「えー……今回の件、私なりに考えてみたの」
「どんな風に?」
レクターが首を傾げる。
ジュネもネインも黙って耳を傾けた。
「婚約破棄したいなら、仕方ない。じゃあいっそ本当に一度、婚約破棄をしてみるっていうのでどうかしら」
「婚約破棄を……」
「実際にやる……」
「え、婚約破棄するんですか?」
みんなが呆気に取られたような表情を浮かべている。
いや、でもこれしかないかなって思ったから仕方ない。
「どうせこのままこうしていても、レクターの謎の声は消えないんでしょ? だったらいっそ、お望み通り婚約破棄すれば、声は消えると思うのよね」
「で、でも、いいのかい?」
小さく挙手をして意見を述べるレクター。
彼のこんな困った表情、今まで一度も見たことがない。
「俺達、そんな何者かも分からない存在によって婚約破棄しちゃうんだよ?」
「そうですよ」
その言葉に同意見なのか、隣にいたネインもレクターに加勢する。
「折角こうやって和解出来たのに、これじゃちっとも納得いきません」
「納得ねぇ……」
そう言ってにやりと笑うジュネ。
恐らく私の真意が見えているのは彼女だけだろう。
「続きをどうぞ、お嬢様」
「ええ」
ジュネに促されるようにして、私は引き続き演説を続ける。
「一度別れて、また戻ればいいのよ」
「また……」
「戻る……」
「それなら婚約破棄もしてるし、条件は満たしているわ」
「そんなに上手く行きますかね……?」
それは正直分からない。
「うん、面白いからやってみよう」
「えっ」
「よかった、あなたならそう言ってくれると思ったわ」
「えぇ……」
===
それから数分後。
「どう、出来そう?」
「……いや」
レクターが残念そうに首を横に振る。
「頭では言おうとしてるんだけど、口に出す前にストッパーのようなものがかかって言えなくなってる」
「どうしてでしょうねぇ?」
「たとえフリでも心のどこかで抵抗する気持ちがあるからじゃないですか?」
「ネイン鋭い」
「そうでもないだろ」
婚約破棄を実際にやっちゃう作戦は失敗か。
残念なような、その気持ちが嬉しいような、複雑な気持ちだ。
「さて、どうするか……」
本来であれば大本の原因を探るのが一番なんだろうけど、こんな突如発生した怪現象、名探偵でもない限り、解決する糸口すらつかめ無さそう。
「そういえばさ」
「?」
「俺があの、さっき暴走した時。あの時は、何がきっかけでああなったんだい? 言いたくなければ無理に強要はしないけど、あの時が一番、婚約破棄を言いやすかった気がしてさ」
「あの時は……」
ネインと私が急接近して、それをレクターが目撃して……つまり。
「婚約破棄作戦の途中だった……かしらね」
「なんだい、それ」
そう言いたくもなるよね。
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