第4話 第三の刺客、その名はネイン
「……はぁ」
結論から言おう。
失敗した。
最初は割と冷静に程よい感じで終わりの空気が出ていたのに、いざ肝心の話題が差し迫ると、レクターは鉛でも飲み込んだみたいに重い口になってしまう。
結果、今回も婚約破棄なしの体調不良で帰宅エンド。
このままじゃ話が次に続かない。
「セイラお嬢様」
馬車を業者に返却したジュネがパタパタと足音を立てて私の元にやってくる。
「行政の役人さんもお帰りいただいていいですかね?」
「……そうして頂戴」
馬車ならキャンセル料を支払ってなんとかなるけど、役人はただの仕事。いい迷惑だったと思う。うちが一応、位の高い家柄だからって無理言って本当にごめんなさい。
「何がいけなかったのかしらね」
「やっぱり廊下に役人配置したことですかね。私のミスです、すみません」
「それは違うわ」
頭を下げようとしたジュネの額を私は右手で押しとどめた。
「あれはむしろ彼の緊張を和らげた方だと思う。決してマイナスじゃなかった」
その証拠に、出だしは本当に順調だったのだ。
あと一言、『婚約破棄してくれ』と口に出来れば完璧なほどに。
「実は婚約破棄を告げられると思っているのは私達の勘違いで、レクター様はそんな事、微塵も考えていないってオチだったりしません?」
「それは無いでしょ」
初回のあの動揺っぷり。
あれは間違いなく婚約破棄を考えている時の顔だ。
「婚約者の私が確信するんだからきっとそう」
「変な自信ですね」
……確かに。
これから婚約破棄されるような間柄の人間の自信は果たして信用出来るのだろうか。
「……確かめられないかしら」
「何を?」
「彼が婚約破棄したがっているかどうか」
「さすがに無理ですよ。だって直接本人に聞くって事でしょう?」
そういうことになる。
そんな事、彼の友人でもない限り不可能だ。あるいは自白の魔法をかけるとか。
「…………分かりましたよ」
「え?」
早々に諦めた空気を出していたはずのジュネが、何故か急に踏ん切りがついたように顔を上げた。
「私がなんとかします」
「なんとかって」
「弟です」
「あ」
言われてふと脳裏に浮かぶ。
ジュネに似た双子の弟、ネイン。
似ているのは顔だけで、性格なんかはまるで正反対だけど。
「ネイン君、レクターの従者なんだっけ?」
「はい、そうです」
「彼になら心情を吐露する可能性も?」
「あり得ます」
「仮にそれが無理そうなら、彼に自白の魔法薬を飲ませることは?」
「可能です。というか、奴は馬鹿みたいに魔法の才能に長けているので、薬など用いらなくても自前の魔法で対応出来るでしょう」
「完璧じゃない!」
「私の弟ですから」
ジュネは胸に手を当て誇らしげに笑った。
だからこそ心配でもある。
「協力……してくれるかしら」
ネインの性格はジュネとは真逆。
一言で言えば、超真面目。
なんだかんだでここまで付き合ってくれるジュネとは違い、そんな相手を試す行為、バッサリと拒否される可能性が高いのだ。
「まー……そこはたぶんなんとかなりますよ」
「?」
含みがあるような口ぶりでジュネが言う。
「どういう事?」
私が訊ねると、彼女はちょっとだけ悩む素振りを見せ、それから静かに口を開いた。
「あいつ、お嬢様の隠れファンなんで」
「あら」
それはなんとも初耳だ。
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