第7話
雨が斜めに降っている。
優花は体育館裏で、駐車場を眺めていた。右手の指が、ドクドクとリズムを刻むように痛みを教えてくる。
優花は考えた。
(どうしてピアノを弾いてはいけないのだろうか。何がルールなのか)
みんな笑顔だった。優花もハルカも聞いている人も。あの空間の何が問題だったのか。考えても答えなんてない気がした。だって、間違いなんてなかったから。
それでも優花とハルカは叩かれ、あの電子ピアノは二度と美しい音を鳴らすことを禁じられた。わからない。何が正しさなのか。何をすべきなのか。何をしてはいけないのか。
気づけば風向きが変わり、優花は雨に打たれていた。身体中に分け隔てなく雨は降りつける。風は髪を揺らし、涙が頬を濡らした。
視界がぼやけ、何が何か分からない。また世界の色が減っていく。
その時だった。
滲んだ光景の中に、強烈な赤い光が差し込んでくる。それはすぐに視界を支配した。目の前が赤い光で埋め尽くされていく。
優花は右手で目を拭った。
すると、赤い光の正体がはっきりと浮かぶ。テールライトだ。日々の中で意識せずとも目にする光。日中はついているのかさえ分からない、淡い光。それなのに、今優花の目の前で、それはこの世のどんな光よりも輝いていた。
それを見ていると、なんだか勇気が湧いてくる。
優花はもう一度目元を拭い、最後にその煌めきを焼き付けた。モノクロの壊れたピアノを記憶の箱にそっとしまい、このテールライトを頭の中に飾っておく。
そして、優花は振り返り、背中を打つ雨と別れを告げる。
すると、体育館に通じる扉の前で、ハルカとゆうとが待っていた。優花は二人の元へ歩いて行き、そっと告げる。
「私、ピアノが弾きたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます