第46話 新たな特産品の予感
計画の見直し、と言っても当面は木材の確保が主となる。
西の村での木材伐採は職人数名と手の空いている力自慢が向かって伐採と加工に当たってもらう。
とはいえ木材として使うには木を切り出してすぐ使えるわけではない、時間をかけて乾燥させ加工にしても用途に合わせ無いといけない。
例えば柱にするなら中心に近い部分を切り出さないといけないなど、素人の俺たちが知らない事や大変さは分からない。
「当面はマッツォ商会を中心にマッツォ商会系列商人を通じて木材確保をしていきます」
報告会という名の会議は淡々と進んでいった。
建築用の木材に関してはマッツォ商会がすでに動いてくれていて、他領にて確保に動いてくれている、そして確保出来次第順次運搬してくるという事である。
西の村での木材量産に関して、効果が現れるのが早くても3か月後、余裕を見ても半年は立たないといけないそうだ。
そのころには町拡張の方も目途が立って落ち着いてくるだろう、というのがジョイやルーイ率いる文官衆の見解だ。
「でも落ち着いたころに量産した木材が出てくると、過剰になって使い道がなくなったりしないのか?」
「それですが・・・」
説明の途中で気になったことを聞いたところ、西の森で作られる木材、伐採は外縁部とはいえ魔の森と呼ばれている深樹の森産、他領の森や林の木より魔素を多く含んでおり耐久性が高いのだという。
というのは王都から派遣されてきた研究員の調査や研究で分かった事らしく、まだ公には知られていない。
これを公表すればアブド領魔の森産の木材という事で、木材自体はもちろんその木材を使った加工品、家具や小物類といった物迄値上がりして領の特産品として売り出せるという。
それと並行して伐採した跡地の深樹の森外縁部に苗木を植えて育てるという実験も研究員の間で始まっているらしい。
「なおこちらは『しょくじゅ』といい伐採するだけでなく時間がかかりますが育ててまた伐採できる木を育てるというケイコ様の知識を元に研究員たち主導で行われており・・・」
ケイコの知識だと聞いてその場に居た全員が納得するかのようにうなずいたのだった。
その『しょくじゅ』とやらの結果が現れるのは数年先という。
まあ木だけに気の長い計画である。
会議を終えてみんながぞろぞろと部屋から出て行き、俺も執務室に戻ろうとベックと共に部屋を出る。
執務室に入るとケイコと女神様が待っていた。
最近のケイコは会議には出ず自由に研究所や町をまわったり、孤児院兼学校にて町の者に読み書きを教えたりとしている。
そのおかげか町の者の大半が簡単な読み書き計算は出来るレベルになっている、その中で優秀だった者が今では文官見習いとして館勤務でベックやジョイやルーイの元で働いているのであるから助かっているどころの話ではない。
「ケイコ殿、どうなされたのですか?」
最近は領の経営に表立って関わらないケイコが執務室に居るのが気になり問いかけると、ケイコはにっこりと笑顔を見せてお辞儀をすると、話し始めた。
「今日は、リゲル様に報告とお願いがあってきました」
その言葉を聞いて、普段から特に要求もしないケイコがあらたまってお願いと口にしたことに、俺とベックはただならぬ話であろうと真剣な顔をしてケイコの話を聞くことにした。
話は簡単に言うと、『この国というかこの世界を見て回りたい』ということだ、この領地を出て旅に出るという訳である。
それを聞いて俺とベックは驚きつつも困惑してしまう。
アブド領がここまで発展し、これからも成長しようとしているのはケイコの力で、そのケイコにここまでしてもらった借りをまだ何一つ返せていないのである。
本人たちの言葉や顔を見る限りはもう決めたことのようだから、引き留めるようなことはできないだろうと悟り、旅の資金や準備はすべてすると決め、ベックに目配せをすると、ベックは黙って軽く頷いた。
「とはいえ、今日明日ですぐにって訳ではないですよ」
それを見たケイコが察したのか今すぐではなく今の町の拡張が終わってからの話になると話し始めた。
それならこちらも準備などの時間が取れるためとほっとするも、旅に出るという事には変わらないので寂しきもちもこみあげてきた。
一通り話を聞いて了承する旨の回答をするとケイコは笑顔で「ありがとうございます」といって部屋から出ていった。
そして残された俺とベックは顔を見合わせ、どうしたものかと考え込んだ。
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