第47話 収穫祭


ケイコの旅に出るという言葉を聞いて俺とベックとアリサの三人で話し合った。

内容はケイコにしてもらった事の恩返しをどうするか。

旅の費用を出す、にしてもケイコは特許権やソースの収入があり、単純に計算したところ領地持ちの伯爵家並みの資金があると思われる。

他にもいろいろ考えた結果、馬車や旅道具といった物くらいしか出せる物は無かった。

今は無理でも出発の時までに何か見つけようというベックの提案でいったん話をやめ溜まっている仕事に専念することにした。



それから順調に主要な建物が建って行き、時が過ぎていった。


留学生の家族、それにマッツォ商会の面々、オリビア王女やリントン王子の使用人による口コミのおかげもあって町への移住希望者は年を追うごとに増えていった。

そのおかげもあって街づくりは当初の予定より早く終わろうとしていた。


そんな中、最初からいる領民と最初の移住者達に『ケイコ様が町を出て旅に出る』という噂が広まっていった。

噂の事実を確認しようとさりげなく聞いてくる者達も現れ、俺たちはのらりくらりとその話題をかわしていたのだ。


町の主要な建物が完成して移住希望者の住居も建ち、あとは一部住居の内装だけとなった、これも冬の間に終わるので実質町拡張計画は終了となると秋の収穫祭前の会議で報告を受けた後、ケイコが何やら個人的に動いているようだった。


そして秋の収穫祭当日、俺の挨拶が終わり乾杯の音頭を取ろうとした時、ケイコから話があると壇上に現れた。


「みなさん、乾杯をお預けにして申し訳ないけど、もうちょっと我慢して私の話を聞いてください」


壇上に上がったケイコがそう言うとその場に居た者たちは静まり返りケイコをじっと見る者、周りと何やらひそひそと話し始める者、なぜか目に涙をためウルウルとしだす者、見当違いな事をはやし立てる者、など、反応は様々だった。


「私とここに居るパル(女神だとばれないようにそう名乗っているが古い領民にはとっくにばれている)はこの町を出てしばらく旅に出ようと思います」


そう切り出して話し始める、それを聞いた者は口々にやはりとか噂は本当だったなど呟き始めた。

その後、ケイコは今すぐではなく春の花吹き祭りが終わってからと告げてざわざわとした会場を笑顔で見渡すと手をパンと叩くと。


「私の話はこれでおしまい、今日は収穫を祝うお祭り、みんな楽しみましょう。それでは乾杯」

「「かんぱーい」」


ケイコの一言で収穫祭が始まったのであった、横で見ていた俺は乾杯の音頭は俺の仕事では?と思ったが、こちらを見てほほ笑むケイコを見て『まあいっか』といつもの面々で祭りに繰り出すのであった。


アブド領の収穫祭は特に何かをするという事がない、それもケイコが来るまでは冬を生き残る事が厳しかったことで収穫の感謝を女神様に報告するだけの行事だった、その名残か特に何をするという事はしなかった。

だが最近はみんなが冬を超えれるだけの蓄えができ、それでも多少の余裕が出来るようになった、今年は飲食のできる屋台や食堂は今日だけ無料で食べ放題飲み放題として開放、宴会となった。

これは屋台や食堂の店主が一年間稼がせてもらったのでそれを感謝して還元しようという事らしい。

最初は領主として金銭を出すつもりだったが店主たちから何度も断られた、何度か交渉したのち余剰として蓄えられた食材を提供するということでまとまった。


それはさておき

俺たちは屋台を見てまわっていた、屋台はどこも工夫を凝らした食べ物が並んでいてあちこちから食欲をそそる匂いがしていた。

町の中央広場には少し背の高いテーブルだけを並べみんな立ったまま飲んだり食べたりしていた。

その為か広場から遠い屋台では歩きながら食べれる物が、広場に近い屋台ではテーブルを使い立ったままでも食べれる物が中心に売られていた。

中には新たに開発した新しい食べ物を売る店も多数あり、それを食べた者の歓声や悲鳴で賑わいを見せていた。

屋台の料理を食べた人は美味しい不味いは置いておいてもみな笑っていた、それを見て周りもまた笑顔になりと笑いと笑顔の輪が広がっていった。


「みんな笑顔で楽しそうで良かった」


俺たちは屋台で買った定番の串焼きを手にそうつぶやくと、ベックやアリサが微笑ましそうに「そうですね」と答えてきた。



収穫祭が終わると今度は冬へ向けての話し合いが始まる。

いくら越冬に余裕ができたといってもこれまでの冬の記憶があるため手を抜くわけにはいかないと、気を引き締めて会議に向かった。












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