第45話 王子様は王女様?
食堂にやってきて席に着いた俺たちの前には、いつもの食事と似ているのだけど少し違う料理が並んでいた。
おおきな深皿にはシチューの様なスープに入ったハンバーグ。
説明では煮込みハンバーグといって焼いたハンバーグをスープに入れて煮込んだものでケイコ様に教えていただいた料理の一つですという。
説明を聞いてナイフを入れると力を入れずとも抵抗なくナイフが入っていく、フォークで口に入れるとハンバーグはほろほろと崩れ、口の中で溶けているような錯覚を覚える。
一緒に煮込んであるスープもトマトがベースでほんのり甘くそれでいてしょっぱさもある、そして何よりお肉から出た肉汁が程よく合わさって味に深みが出ている。
「これ美味しい、こんなおいしいと一杯食べれそうだな」
俺がアリサに言うと「よかったです、おかわりもございますのでごゆっくりと味わってください」と笑顔で返ってきた。
そしてリントン王子はと言うとハンバーグを口にして頬に手をおいてうっとりしていた、申し訳ないけどどう見ても少女にしか見えない仕草に一瞬ドキッとした。
一緒に食卓に並んでいた柔らかく白いパンに驚き、食べてはうっとりする仕草を見せつつ食事は終わり、リントン王子は満足したようでアリサにお礼を言っていた。
その後は完成したばかりの迎賓館に案内をして一日が終わった。
翌日はリントン王子の希望で町の見学をする。
リントン王子は動きやすそうな上着にシンプルで飾りがないスカート姿で現れた。
後ろには侍女の二人が今日はメイド服ではなく私服なのだろうか、シンプルなワンピース姿で立っていた。
それを見て『やっぱりそういう服装なんですね』と思いつつ見ていると、王子は首を傾げて何かおかしいところありますか?と聞いてきた。
「いえ何でもありません」
と王子のしぐさがかわいらしかったのでつい目をそらしてしまったのを、後ろに居たケイコがクスクス笑っているのが聞こえた。
見学中も『あれはきれいですね』とか『あれはかわいいです』と仕草や言動がどう見ても何処かの貴族令嬢のようで実は王子じゃなく王女なのでは?と錯覚してきた。
そして後ろをついて来ていたアリサとケイコの顔が王子のそんな行動を見るたびにだらしなく崩れていたのは見なかったことにした。
見学をした翌日からはベックやマッツォ、時にはアルスとケビンも交えて、双方の首都を結ぶ交易路の安全確保の協力体制や税の取り決めなどを話し合い、簡易的な契約書を作りサインをした。
その他王子が個人的に一緒に来た侍女とケイコやアリサに料理を教わったり、と満足いく滞在ができたようで、出発の時はどこか名残惜しそうな顔をしていた。
「隣領ですしいつでもお越しいただいてかまいません」と伝えると笑顔で絶対にまた来ますと言い残し数日滞在した王子は馬車に乗って帰っていった。
名残惜しそうな顔をしていたのは王子だけでなくアリサとケイコなど女性陣もだったのだが、そこは触れないでおこう。
王子の乗せた馬車が町を出たとの報告と同時に別の報告が飛び込んできた。
「リゲル様、じつは建築の木材供給の件ですが。西の村の在庫がなくなって間もなく供給が止まるとの報告が入ってまいりました」
木材供給の報告を聞いている時、ベックはやはりかと言っていた。
うちの領地の建築用や薪用といった木材はすべて深樹の森に近い西の村で伐採をして確保していた。
薪用の木材は細かくして乾燥させるだけで簡単だが、建築用となると乾燥の前後に加工も必要となるため手間がかかり時間がかかるという。
町の拡張に伴い多くの需要ができたため薪用は大半がマッツォ商会経由で確保して、村では建築用木材の確保を中心にしてもらっていたのだが、とうとう追いつかなくなったという事だった。
「足りないならマッツォ商会に頼んで他領で買い付けすればいいんじゃないか?」
「今からマッツォ商会に頼んだとして、手元に届くのは早くて半月、下手すれば数か月は掛かる。それにすぐ大量に、ともなれば足元を見られて値が・・・」
すぐにマッツォ商会に必要最低限の木材確保に動いてもらい、一部の職人を西の村に派遣して建設用木材の量産をするよう手配をするよう指示を出す。
「申し訳ありません、計画上は供給量は大丈夫な計算だったのですが・・・」
「いくら前もって計算したり考えたところで実際にやってみないと分からない事もあるもんだし、今回の経験を次回に生かせればいいんだ。それより今決めたことの手配を急ごう」
「ありがとうございます。すぐに手配いたします」
申し訳なさそうにしていたジョイとルーイは各種書類をまとめると部屋を飛び出すように出ていった。
「さて、こっちも計画の見直しを進めようか」
「はい」
残った文官見習いに声をかけて俺は机に向かって計画書と睨めっこを始めた。
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