第30話 優秀な人材の確保


王女様は夕食の時に例の件はすべて片付いたと嬉しそうに話していたのであの時の晴れやかな表情はそのためかと思った。

そして移民の話になり貧民街のほぼすべての者が移住希望だと伝えると驚いた顔をしていたものの、ケイコの計画だと伝えるとなぜか納得していた。

それと一晩でリストを作成するなど結構優秀な人材が居たことも話すと、目を輝かせながらうちにも欲しいですと食いついてきた。


聞くと代官としてこの領地を任せるノア村長が明日夕方に到着するとのことで、その補佐役が数名ほしいと言う。

そして明日の炊き出しには王女もついてくると言いだした。



翌日いつもの孤児院に着くと院長は固まり王女はなぜか懐かしそうに院長に抱き付いていた。

聞けば院長は8年前まで王宮で働いていたそうで、周りから煙たがられていつも一人だったオリビアの相手をしていたのだそうだ。

王宮をやめてからはこの孤児院で院長として働いていて、この地がオリビア王女の領地になったのはただの偶然だったという。


募る話もあるだろうと院長と王女を部屋に入れて俺たちは子供たちと炊き出しの準備に入った。

アリサと使用人それと数人の女の子は調理場に、男性陣とそれ以外の子供は庭に移って準備を始める。

子供たちも慣れたもので騎士の二人の指示に従いながらてきぱきとテーブルを出して食器を用意する、それが終わると貧民街を走り回り炊き出しが始まる旨伝えて回る。


住民は最初でも最後でも具がたっぷり入ったすいとんが食べれる事を知っているからか、慌てず急がずゆっくりと集まってきては門の辺りで列を作り出す。

最初のころは割り込みやらケンカやらがあったが、今ではどこに並んでもお腹一杯食べれるとあって皆落ち着いた感じになっている。

時折あとから来たお年寄りに先にもらえるようにみんなで声をかけて前の方に入れたりと心にも余裕ができたのか親切にする一幕も見られたりする。

そしてここで食べて少し元気になって街で仕事を探して働きだした人も居るとか人づてに聞いたりもした。

それを見たり聞いたりして過去にケイコの言った『美味しいものは人を幸せにする』という言葉を思い出してつい笑顔になってしまった。


アリサがすいとんが出来上がったことを伝えに来ると数人の男性が列から出てきて運ぶのを手伝ったり、最初の方にもらって食べ終えた人が今度は配る役を買って出たりと、各自でできることをやろうと必死になっていた。

そんな中、先日リストを作ってきた数人がいたので食べ終わってから話があると声をかけて残るように伝えると、何やらびくびくしながら分かりましたと返事をしていた。


一通り配り終わると今度は数人の子供たちが騎士の二人を連れて剣術の真似事(子供は剣の修行と言っている)を始める。

騎士の二人も子供に頼られたりするのが嬉しいのか楽しそうに教えていた。

中には覚えが良い子もいて将来は騎士団になんて言ってたりもする。


そして片づけが終わると待たせていた5人を連れて孤児院の応接間に連れていく。

そこには院長と王女が待っていて、連れてきた人たちは最初この子供がここの領主で王女殿下だとは知らなかったらしく、紹介するとぶるぶる震えながら座っていたイスから飛び降りて膝まづくといった一面もあった。


その後は王女たちと話をして3人はこの領地に残り代官補佐候補としてノア準男爵の元で勉強していくことになった。


「そうと決まれば色々とやる事が山積みですわね」


といって3人を連れて先に館に帰っていってしまった。

残された俺たちはぽかーんとしてただ見送る事しかできなかった。


結局残った2人はそのまま移住希望者として領地に来てくれるとのことなので、領地に来たらベックの元で勉強させることにする。

そして院長は子供たちの一部は王女の館で使用人見習いなどで使ってくれることとなり、それ以外は移住希望という事で孤児院の子供はいなくなる、そして院長は館で使用人の指導という立場で受け入れてくれると言っていた。


「そうなると孤児院や貧民街も無くなっちゃうのか」


ちょっと愛着の湧いたこの地域が無くなることに残念に思っていたが、院長に治安の悪い地域が無くなるのは街としてはいいことだと言われて確かにと納得するのであった。


その後みんなと館に戻ると、こぎれいにした先ほどの3人がぎこちない動きで出迎えてくれたのを見てクスッと笑ってしまった。

その後先ほどの3人も交えて移民の移動計画を立てていく。


移民の移動は三回に分けてもらいそれとは別に留学の者が一回となる。

移民の三回目と留学の者をまとめて送ることになるので実質三回で済む。

そして第一陣の移動は来週出発することとなる、これはケイコが出発前に俺と決めたことで、ケイコが先に戻り指導や割り振りをベックと決めるという、その第一陣に今日面談をした2人も同行させてベックの元で働いてもらうことにした。


王女からは馬車と御者、それと護衛の確保、移民の手続きと道中の食糧や宿のための資金も用意が出来ているという、そういった事は流石は王女様といったところだろう、仕事に抜かりはないようだ。

第一陣を送った馬車が戻ってきたら第二陣の出発となる。


そんなことを決めたところで執務室のドアが叩かれノアさんが間もなく到着との連絡が来る。

出迎えのために玄関まで行くと、例の3人は緊張でカチコチになっていて見ているこっちも緊張しそうでつい笑いそうになってしまう。


「3人とも緊張しないで良いよ、と言っても無理だろうけど」

「にゃい」「ひゃい」「ふぁい」


3人の返事に王女と俺だけでなく使用人からもクスクスと笑い声が聞こえてきた。

その時、門に馬車が入ってきた、ノアさんを乗せた馬車である。

前に一騎と後ろに二騎の騎乗した騎士が付いていた。

俺たちの前に馬車が止まり扉が開くと、ノアさんが降りてきて深々と頭を下げてきた。


「この度はオリビア王女殿下の領地の代官の任に就かせていただき誠に・・・」

「そういうかたっくるしいのは無しでいいわよ、それより長旅で疲れたでしょうけど紹介したい人が居るの」


ノアさん渾身の挨拶を綺麗に両断してオリビア王女は例の3人を連れてきて紹介を始めた。


「ということであなたの補佐見習いとしてこの3人を付けるから好きに育てて使ってくださいな」


そう言うと館の中に案内してすぐに夕食となった。

夕食にはオリビア王女にノアさんに例の3人、それと俺だけという状況で4人は緊張しているせいか会話も無い静かな夕食会となった。

引継ぎなど仕事は明日からという事で4人には今日は休んでもらい俺と王女は応接室でアリサに入れてもらったお茶を飲んでいた。


「初々しくて面白かったわね」

「さすがにあそこ迄がちがちになるとは思いませんでした」

「王女殿下、リゲル様、お言葉ですが一般の国民が貴族や王族に会う事は一大事ですから普通はああいうふうになるかと思います」

「そうですわね」「そうだな」


アリサに言われて反省しなきゃと思ったが、アリサやベックも今は慣れ親しんだ感じだけど、元は冒険者だったわけで最初はあんな感じだったのかなと思うとつい顔がにやけてしまう。

アリサはそんな俺を見てやれやれといった感じでお茶のおかわりをついでいく。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る