第28話 心を掴むにはまずは胃袋から
朝食を済ませて王女たちを見送り出かける支度を終えると、アリサが呼びに来た。
「リゲル様、そろそろお出かけの時間です」
「ああ、わかった今行く」
俺は返事をしてすぐに玄関に向かう、玄関を出るとそこには荷物をいっぱい積んだ荷車が一台とケイコが待っていた。
「今日はこれを持って孤児院に行きましょう」
ケイコは笑顔で言うが、誰がこれ牽いていくんだろうと考えているとアリサとケイコはじっと俺の顔を見ている・・・。
「もしかして俺が牽いていくの?」
「そうよ」
やっぱりそうなるのね、と落胆しながら荷車をひこうとすると、館の守備に就いていた騎士の一人に止められた。
「男爵様、お待ちください。そのような力仕事でしたらうちの騎士団から一人出します」
「君たちは館の守備を任されているんだろ、悪いから・・・」
「いいえ、ヘントン殿下よりアブド男爵のお力になるよう仰せつかっております。ですからこのような事でもお力になれるのでしたら騎士団として光栄です」
俺の言葉を遮るように騎士の一人が答えてきた、周りの騎士たちを見ても我にお任せを、とばかりに良い笑顔でこちらを見てくる。
「そうね、じゃあ、そこのあなたとあなた、お願いできるかな」
「「はっ、承りました」」
俺が戸惑っているとケイコがその場に居た騎士の中から優しそうな若者二人を指名して頼んだ。
それから鎧姿だと威圧感があるので私服に着替えさせる、屋敷を離れる事になるので職務という事にするため、俺たちの護衛という名目で帯剣は許可した。
五人で昨日行った孤児院に向かって進んでいく、貧民街の路地に入るとすえた匂いが漂ってきた、昨日経験した俺とケイコは何とか大丈夫だったがアリサは顔をゆがませつつも笑顔を作ろうと頑張っていた、騎士団の二人は顔色一つ変えずに荷車をひいていた。
「さすが騎士は何事にも動じないんだな」
「いえ、私たちは定期的にこの街の警備巡回もしておりまして、この地区にもよく来るんです。ですので慣れたといいますか」
そんな会話をしていると、目の前に孤児院が見えてきた。
孤児院の前に荷車を止めて、声をかけると昨日対応してくれた院長さんが顔を出してきた。
「今日はどうされましたか?」
後ろの荷車を眺めつつも怪しい者を見るような目で俺たちを見てから聞いてきた。
「今日はここで炊き出しをさせていただこうかと思いまして。つきましては孤児院の調理場と敷地をお借りしたくてですね」
「炊き出しですか?いったいどういう風の吹き回しですかね」
ケイコの言葉に怪しそうな人を見る目でこちらを眺めてくる。
「ですから今日から毎日1回ここで炊き出しをしたいと思いまして」
「えっ、毎日?」
荷物から見て炊き出しをするんだろうとは思っていたが、毎日とは聞いていなかったのでつい聞き返してしまった。
院長もうさんげに俺たちを見ながらも、調理場に案内してくれた。
俺たちは手分けをして持って来た食材を調理していくことにした、が結局俺と騎士の三人はあまり役に立て無いので配る場所の設営に回った。
場所は孤児院の門を入ってすぐの場所で、雑草が生い茂っていたので草をむしっていると、俺たちに気づいた子供たちが建物の影や窓からこちらをうかがっていた。
手招きをすると数人の子供が来て草むしりを手伝い始めて、気づけば最初警戒していた子供たち全員で草むしりとテーブルに食器の用意まで手伝ってくれていた。
準備が終わったころにアリサとケイコが出来たので運んでほしいと声をかけに来た。
騎士の二人が力仕事なら任せてくださいと二人に着いて行き、すぐに大きな鍋を二つ持って出てきた。
鍋を覗くと野菜がたっぷり入っていて、何やら白い団子の様な丸いものが浮いていた。
あとでケイコに教えてもらったのだが、この白いものは小麦粉を水でねって丸めたもので、このスープはすいとんまたはだんご汁という物だという。
おいしそうな匂いが漂う中で子供たちはお腹がグ~っとなって恥ずかしそうにうつむいている子もいた、それを見てケイコは笑いながらお椀につぐと、それを近くで見ていた子供に渡した。
するとみんな我先にと貰いに来るので、
「みんなの分はあるから順番に並んでね」
と声をかけると、子供の一人が出てきてまとまりのない子供たちに声をかけて、年齢の小さい順に並ばせていた。
「まずは小さい子からですか・・・、それを誰に言われるも無く率先してやるとはあの子は将来有望かもしれませんな。こんなところで育ったのでなければ今頃は・・・」
それを見て騎士の一人が感心していた。
「そうですね、優秀な人材なんて意外とこうやって見つかるもんなのかもしれませんね」
「ですが孤児というだけでつける仕事は限られてしまいますから。多分あの子も・・・」
俺の言葉を後ろで聞いていた院長が悲しげな顔で答えてきた。
「そうかもしれませんね、ですから昨日お伝えしたように手に職を付けさせて、もっと道を広げてあげないといけないと思いませんか?」
俺の言葉に院長は何やら考え込んだ後、何も言わずに建物の中に消えていった。
子供たち全員にスープがいきわたりおいしそうに食べ始めるのを見ながら、ケイコは子供たちに話しかけた。
「それを食べたら今度は貧民街をまわって『ここでスープをタダで配ってる』ってみんなに教えて連れて来てくれるかな?」
その言葉にスープに夢中になってた子達は食べ終わると同時に我先にと走って行った。口々に僕が(私が)一番連れてくるんだと言いながら。
それを見てアリサとケイコは笑顔で手を振りながら転ばないように気を付けてね、と送り出していた。
しばらくすると聞きつけた貧民街の住人がちらほらとやってきては列を作っていた。
中には割り込もうとする者もいて口論になっていたが騎士が間に割って入ってなだめられたり、列整理を手伝ってくれていた子供たちに「大人のくせにかっこ悪い」と言われて恥ずかしそうに列の最後尾に並び直す光景が見られた。
特に大きな問題も無く来たみんなに配り終わると、明日もここで配りますと伝えて、残ったスープは孤児院で晩御飯にでも出してくださいと置いて帰ることにした。
帰りは空の荷車を牽きながら騎士の二人が、
「明日も私たちがお供させていただきます」
と言われてハッと気づく。
「ケイコ殿、毎日炊き出しをするなんて聞いて無いぞ」
「はい、言ってませんから。それに任せてくださったのはリゲル様ですよね」
「リゲル様、ああなったケイコ様には何を言っても無駄かと」
アリサの一言とドヤ顔で無い胸をそらしているケイコを見て、はぁ、とため息をつく。そしてそれを見ていたその場に居る皆で大笑いしていた。
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