第27話 職人組合と街民


「こちらは職人だけが対象なのですか?」

「それはどういう意味で」


ロンの言葉になにやら考えが有るのかと聞くことにした。


「あっ、いえ、職人以外での募集はなされるのかと聞きたかったのです」


詳しく聞いていくと、街民登録されてる人の外壁通行が厳しく規制されている、その一つとして一時預け金なるものがあるという。

一時預け金とは、登録領民は街から出る際に一定の金額を預けて戻ってきた時に返却されるお金のことだという。

その金額を聞いて俺たちは驚いた、一日小金貨一枚、何じゃそりゃ、と思ったが、話は続いた。

街に戻ってきて返されるのは半額の大銀貨五枚・・・、半分は手数料だ事務費だと難癖付けて徴収するのだという。

不服を言うとその場で拘束された人も居るとか。


「なんだそれは、それだと街の外で仕事する人はきついのではないか?」


俺の言葉にロンは続けて話をする。

商人や冒険者など外で仕事をする者は利益の一部を納付することによって一時金免除証を発行してもらえる、だが結局は結構な額を取られるので結局は収入がほとんどない。

商人などはターブ準男爵など権力者の取り巻きになればそこそこ儲けられる、でも冒険者の様な者はその日暮らす金額すらも稼げない者もいるという。


「その制度はターブ準男爵の拘束後は廃止と通達したはずですが」


オリビア王女の言葉にロンは首を振り答える。


「それが一部の者はまだ続けているらしく、いまだに徴収している衛兵が居るのが実態です」

「その件に関しては私が領主として何とかします、でもこの話をしたという事はそれだけではないのですよね」

「そうですね・・・」


王女の言葉にロンは本題に入っていく。


その制度や税などが原因の孤児や貧困層を街の北の一角に隔離して居る事、その孤児や貧困層が就ける仕事がないという現状。


仕事は有るには有るが街内の雑用程度しかないのが現状である。

やる気や多少体力に自信のある者は冒険者登録して外に出るが獣や盗賊などにやられて残った家族は収入がなくなり貧困層に子供は孤児になる、そんな繰り返しだという。


「なるほどな、ロンの言いたいことは、その貧民街の住人や孤児を移民に出来ないか?という事だな」

「そうです、職人として技術が身につけば貧困層からは抜け出せるのではないかと」


その言葉に俺は考えて行く、うちとしてはちょっと教えてすぐ動ける人材、すなわち即戦力がほしかったのだが、遠い先の事を考えたら人材育成も視野に入れないといけない。

かといって一人前になるまでの時間を補助する力は今のアブド家には無いのも現実。


しばらく悩みみんなの意見も取り入れて、留学組は経験者や即戦力のみ募集して、移民組は半数を貧困層や孤児たちから募集をかけることとした。

そしてその日の話し合いは日暮れ前に終了した。


そうと決まればと翌日は俺とケイコで貧民街に向かった。

オリビア王女は例の一時金の事を調べて回り、組合長のロンは職人たちに留学と移民のことを説明して回るというので、今日は別行動になった。


「通りを一本ずれただけで雰囲気変わったな」

「そうですね、それに臭いも」


貧民街と呼ばれる区画の入り口に立つと、後ろはきれいな建物だが目の前は修繕していない建物が目立つ。

しばらく歩くと道の脇には座り込んだ子供や大人がちらほら見えてきた。

みんなぼろい服を着て顔は覇気がなく暗い、そして俺たちが通り過ぎる際にちらっと見てはすぐにうつむいてしまう。


「奥の方はもっとひどそうだな」


俺がつぶやくがケイコは何も言わずに黙ってついてきていた。


目的の孤児院に着くと目の前の光景に言葉が出なかった。

門から建物までは道が出来ていたが庭らしき場所は雑草が生い茂り、建物は今にも崩れるのではないかという状態だった。

玄関から声をかけると初老の女性が出てきた、簡単に挨拶を交わしとこの女性はこの孤児院の院長だと説明される。

そして来た経緯を話すと院長の女性は疑うような目で見てくるが中に案内された。


この孤児院では現在18名の子供が居り、15才になると卒院していくという。

卒院してもまともな仕事にありつけず貧民街から出る事が出来ずその日暮らすのでいっぱいな生活をしているという。

跡取りのできない商家や貴族に養子としてもらわれていくこともあるが、そんな事はごく稀である。


国の法律は15歳で成人だが、給金が発生する仕事や家業の労働ができるのは10歳からとなっている、だが地方の村などは10歳以下でも貴重な労働力なので簡単な仕事をさせているのが現状である。

それが孤児となるともっと厳しくなり、物心つく年齢にはもう仕事が待っているのである。


それはさておき、院長に移民の話を説明して孤児院でも面談をさせてほしいと伝えるが、あまり乗り気では無い様だった。

ケイコから今日のところはもう帰ろうと言われ、対応してくれた院長にお礼を言って、寄付するためにもって来た少しばかりの食材を置いて帰ることにした。


館に帰るとオリビア王女はまだ帰ってきていなかったので、二人で昼食を済ませるとどうするか話しあうことにした。


「あの院長最後まで信じてなかったな」

「そうね、でも策はあるよ。私に任せてくれないかな」


そうケイコが言うと、必要な物があるから買い物に行ってくるとアリサを連れて出かけてしまった。

内容を聞く前に行ってしまったので、館にぽつんと残され何もすることがなく、みんなが帰ってくるまで庭で剣を振って汗を流した。


夕食の時にこっちの状況を話した後に、王女からまだ一時金を徴収していた衛兵を拘束して尋問を始めたがまだこの件で動かないといけないと説明を受けて、しばらくは別行動になりそうだと思った。

ケイコからはまた明日孤児院に行く、その時は俺とアリサも一緒に来て欲しいと言われたので了承する。


そして夕食が終わり各自部屋に戻りゆっくり休んだ。












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