第23話 準男爵の拘束


「さて今日の本題に入ろうか」


ヘントン王子の一言に部屋にいる全員の顔色が変わった。


「まずはターブ準男爵」

「は、はい、なんでしょう?」


ヘントン王子の鋭い目と低い声にターブ準男爵はびくびくしながら返事をする。


「こちらで調べた領民の納税額と王宮に対する納税額の差があるようだが、どうなんだね?」

「そんなことはございません、領民から受け取った税はそのまま王宮に送っております」


王子が見る書類は俺たちが集めた証拠や使用人や準男爵の臣下の証言などから、準男爵自ら指示を出し数字をごまかしていた事を示す書類だった。

冷や汗をかきびくびくしながらもターブ準男爵はしらを切りとおそうとしているようだった。


「ほう、ではこの数字の食い違いは準男爵の知らないところで横領や着服が行われているという事でいいのかな?」

「数字が違うのであればそうなるかと思います」

「部下が横領や着服をしたと認めるのだな?」


この時、王子の口元が一瞬動いたのを知る者はこの部屋にいた誰も気づかなかった。


「部下がした事なのでその者を処罰します、そして財産を没収して補填させます」

「そうか、なら準男爵、お前も拘束しなければな」

「なっ、なぜです?私は何もしておりませんぞ」


王子の言葉に慌てふためきだす準男爵が反論を言い始める。

その言葉を聞き流して王子は話を続ける。


「そうだなお前は何もしていなかった。だからそれがお前の罪なんだよ」


その後も王子は淡々と話し始める。

内容は簡単に言うと『部下の管理もできない無能はクビ』ということだ。

そして代官とその部下が国に対して損失を与えたという事で国家反逆罪が適用されるため拘束して処罰するということらしい。


この国で国家反逆罪はどんな罪よりも重い罪になる。

罰は一族の拘束・処刑・財産没収、と厳しいものとなる。


他にも俺たちが集めた情報以外の罪でも詰めていき、ターブ準男爵の罪が積み重なっていく。

最後は王子たちが連れてきた近衛兵が準男爵を連れて出ていってしまった。


「これ俺たち要らなかったような、ってかなんで俺ここに居るんだろ」


一部始終を黙って座ってみていた俺は準男爵が連れ出されて静かになった部屋を見回して呟いた。

ヘントン王子は呟く俺を見て笑いながら立ち上がると向かいのソファーに座る。


「いやぁ、アブド男爵が用意してくれた情報が役に立ったな、こちらで用意した情報だけではあやつを拘束は出来ても処断は出来なかった。お礼を言わせてもらおう」


そして俺たちにこの状況のいきさつを話し始めた。

王家としてターブ準男爵の事を内々に調べてはいたのだが、王族領かつ王家が指定した者がダメだったなど知れ渡ると王家の信用が、と言い出す保身に走る家臣が多くてなかなか行動に出せない状況だった。

そこへ、オリビアから西の村の状況やターブ準男爵の事を手紙で報告されてヘントン王子の権限で動いてきた、という事らしい。



「それにしてもこうして会ってみると妹たちが気に入るのも分からんでもないな。だがな、妹たちはやらんからな。俺を倒そうが超えようがやらんからな」


突然の王子の言葉に何を言い出すんだこの人は?と思っているとミリア王女が王子にジト目で話し始める。


「お兄様、相変わらずうざいですわ」

「ミリアよ、うざいとはなんだ、俺はお前たちが可愛いから変な虫が付かないようにだな・・・」

「はいはい、それがうざいというのですわ、こんなシスコン王子は置いといて別の部屋に行きましょうか」

「ちょ、まて、おれも・・・」

「ああ、お兄様は来なくて結構です、来られてもうざいだけですので。それではオリビアちゃん、アブド様達も、行きましょうか」


俺たちは肩を落としうなだれる王子にかける言葉が見つからず、ミリア王女に促されるまま軽くお辞儀をして部屋を出る。


「あの、ミリア王女様、ヘントン王子にあのようなこと言ってもいいのですか?」

「いつもの事なので大丈夫です、どうせすぐに元に戻りますから。ああなったらほっとくのが一番ですわ」


俺の問いに笑顔で答えるミリア王女にあれがいつもの事なのかと苦笑しながらついて行くことにした。


そして昼には笑顔でアリサ達が作った料理をほうばっていた王子が居た。

『この王子が次期国王でこの国は大丈夫なのだろうか?』と不安になっている俺をオリビア王女が気付いたのか俺だけに聞こえるように話し始める。


「ヘントンお兄様は普段はこんなですけど職務等の時は頼れてかっこいいんですよ」


その言葉に準男爵と話している時の王子は確かに頼もしかったなと思い出すが、今の目じりが下がりだらしなくご飯を頬張る姿を見ていると不安になっていく。


結局準男爵とその部下10名、それに使用人のトップ3人が拘束されて一部の近衛兵に連れられて王都に旅立って行った。

それを見送り応接室でくつろいでいると、王子達はこの後の代官をどうするかという話になっていく。

そしてなぜかみんなで俺を見てくる。


「私は領地がありますので無理ですよ」

「だよな。領主じゃなければ推薦したのだけどな」


俺の言葉に王子はため息交じりに納得する。


「誰かいい者が居ればいいのだが」


そこで俺は一人だけよさそうな人はいることを思いつく、それは来る途中の村のノア村長だった。

王子にノア村長の事を話すと、目を輝かせて一度会ってみたい明日にでも行くかと言い出す。

ここに呼ぶんじゃないのか?と思ったが、


「数日だとしても村長が村を離れるのは隊長のいない軍隊の様に統率が取れずにバラバラになってしまうだろ、それに王族だからといっても私は王子だからな、そこまでの権力はないさ、あっても上級貴族程度だよ」


と笑いながら話してきた。

上級貴族の権力ってだけで村長を呼び出すには十分なんだよな、とおもいつつ頷く。

そして朝から移動するからと早めに休むことになった。













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