【第2章】王女と領地

第14話 新たな問題


花吹き祭りが終わり、祭りの余韻が収まり落ち着いてきた頃。


「やはり、ケイコ様の国の料理はおいしいですわね」

「そうですねお姉さま」


王女二人はまだアブド領に居た。


「あの、王女殿下、そろそろ王都に戻らなくてよろしいのですか?」

「わたくしのことは大丈夫ですのでお気になさらずに」


いや、王女殿下の事というか王都から早くミリア王女を王都に戻して学校に行かせるようにと毎日のように手紙が届いているんですけど・・・。

はぁ、とため息をつきながら、どうしたらこの二人が帰ってくれるのだろうと頭を抱えていた。


「ミリア殿下は最高学年になりますから良いのでしょうけど、オリビア殿下は今年中等学園にご入学では無いのですか」

「わたし中等学園は行かないですよ」

「へ?」


この国では初等学園は平民でもお金さえ払えば行ける、そして裕福な商家や貴族以上は中等学園に行くのが当たり前だった。

というのも初等学園は簡単な読み書きと算術、それに剣術などを勉強をして、中等学園では歴史など文官や貴族として必要な事を学んでいく。


貴族で中等学園に行かないという事は家を追い出された者か、追い出されても良いと考えている者だけである、貴族というのは世間体を気にする者が多く、過去にも学園を退学になった、進級できなかった、という理由により平民の身分に落として追放なんてことも良くある話である。


貴族ですらそうなのだから王族、それも国王の直系でいかないというのはありえない、俺はそう思っていると。


「ありえないと思いますか?正妻の子であるミリアお姉さんはともかく、わたしは側室のそれも序列最下位のお母さまから生まれたので、最近まで第5王女を名乗るのすら疎まれていたのですよ。今はミリアお姉さまがよくしてくれて何とかこうして動けるようになったのです、それに・・・」


なんだかドロドロした王宮内の事を話し始めて俺はどう返事して良いのか困ってしまった。


「オリビア、男爵様にそんなことを言ったところで困らせてしまうだけですよ」


オリビア殿下の言葉を遮るように口をはさむミリア殿下のことばにその場はシーンと静まり返ってしまった。


「今日はデザートを用意してあるのでよかったらどうぞ」


場を読んだのか、静寂を切り裂くようにケイコが『パン』と手を叩き言うと、アリサに目配せをしてデザートを用意していく。


出てきたものはキツネ色した薄い物がお皿に山盛りになっていた。


「ケイコ殿これは?」

「ポテトチップスと言って、芋を薄くスライスして揚げた物に塩で味付けした物です、お口に合うか分かりませんがお召し上がりください」


ひとつ摘まんで食べると、サクサクした食感がして口の中には脂分とほんのり塩味が合わさり、そこに揚げたことによる香ばしい味が広がっていく。

前に食べたポテトフライという物はサクッとして中はほくほくだったがこちらは最初から最後までサクサクでパリパリとしていた。


「これはこの前食べたポテトフライと違った食感でおいしいな」

「そうですね、お芋と塩だけでこのようなおいしい物ができるとは驚きです」


三人で頬張るようにポテトチップスを食べているのをケイコたちは嬉しそうに眺めていた。



食事が終わり各自部屋に戻るときにミリア殿下からお願いがあると言われ応接室で話を聞くことにした。


「お時間を取らせてしまい申し訳ありません、お願いの前に少しお話しないといけませんね・・・」


部屋に入り席に着くと、アリサがお茶を出して退出するのを確認してから、ミリア殿下が淡々と話し始めた。


話は思った通りで、オリビア殿下の事だった。

王宮内でオリビアの立場は名目上は第5王女とされてはいるが、使用人や側室たちの間では疎まれて邪険にされていた、オリビアの母も同じだった。

それはオリビアの母の生い立ちに関係しているという。


オリビアの母は帝国の孤児院出身で帝国を抜け出しこの国の王都に来て働いていたという、そして王様が見初めて側室に入れた。

平民が王家の側室になると言うだけでも大事なのに、実は元孤児という生い立ちに他の物が納得していないが、王の命令だからと渋々従っているだけというのが現状らしい。


そんな側室の子として生まれたオリビアも同じように疎まれて、王宮では居場所がなく肩身の狭い思いをしているのだという。

ミリア殿下はオリビア殿下の事を素直で良い子なのにかわいそうだと目をかけて近くに置いているという。


そんな事情を聞かされて、なぜそんな話を俺にするんだ?と思っていると、ミリア殿下がニコッと笑って。


「そこでアブド男爵様にお願いしたいのです。オリビアをこの領地で匿ってください」

「はぁ?」

「その間の支援も費用もすべて私の権限の範囲内でさせていただきます」

「そうは言いましても・・・」


突然のミリア殿下のお願いに開いた口がふさがらず混乱してしまった。

そしてミリア殿下の押しに負けて頷いてしまった。・・・なんて面倒ごとを受けるんだ俺は~、とその日は眠れずベッドの上でのたうち回っていた。


翌日アリサとベックにケイコを交えてオリビア殿下をしばらく預かることになったと伝えると三人とも驚き「普通に考えたらおかしいですよね、なんでうち何ですか?」と問い詰められて、ミリア殿下から聞いたオリビア殿下の事をすべて話すと、そういう事情ならと納得してもらえたが、それにしてもなんでうちに?と三人とも呟きながら今後どうするかと考えていた。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第2章始まりました。

が、しばらくは週2回投稿にさせていただきます。


土・水・の16時からとなります。


これからも『領主になったけど辺境で貧乏で手に負えません』をよろしくお願いします

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