第13話 【閑話】 長野恵子転生する
私は長野恵子25歳、都内の大学を出て実家に戻り、隣町の小さな工場で事務員として働いている。
事務員は人手が足りず定時で帰ることは稀だった、今日も少しの残業をして帰路に着く、いつも仕事が終わって家に帰るまでのこの時間が楽しい。
電車ではネットで大好きなファンタジー小説が無料で読み放題だなんて良い時代だなとつぶやきながら、お気に入りの小説が更新されてないかをチェックをする。
駅に着いてからも翌日のお弁当の中身を考えながら駅前のスーパーで食材を選んでいく。
そして駐輪場に止めてある原付で実家に帰る。
これが私の毎日の楽しみの一つである、だがこの日は何かが違っていた。
原付を走らせいつもの近道の田んぼ道を走らせていると、いきなりヘルメット越しに頭に衝撃が来るのと同時に意識が飛んだ。
どのくらい意識が飛んでいたのか分からないが、目が覚めると真っ暗な空間に居た、田んぼに突っ込んだような跡はなく、乗っていた原付も見当たらない、何より座っている足の下は土でも泥でもなく硬い床だった。
「えっとここは?何が起こったの?」
呟きながら意識が飛ぶ前の事を思い出していくが、さっぱりわからなかった。
「ここはどこなの?なんなのよもう!!」
意味わからなくなり咄嗟にいつもは出さないような声で怒鳴ってしまった。
すると暗闇が暗転して、いっきに明るくなった、まぶしくて目を閉じてゆっくりと目を開けて明るさになじませていく、目を開いた後は周りを確認するが真っ黒な壁と床と天井で囲まれた部屋のようだったが色々とおかしい、明るいのに電灯がない、壁にも天井にも窓と扉がない。
「は?もしかして誘拐?拉致監禁?まじで?」
ひとり呟きながら考えていると、何かが正面に現れた気配がして顔をあげると、そこには少女がひとりいた・・・、というよりどう見ても浮いてるよね、そうその少女は床と天井の間くらいに浮いていたのだった。
「あの?」
「はい何でしょう?」
声をかけるとこんな状況にかかわらず明るくのんびりした口調で答えてきたのでちょっとカチンと来てしまった。
「何でしょう?は私の言葉だよね、というかここはどこよ、ってか誘拐したって家にはお金ないから身代金は取れないわよ」
そして早口でまくし立ててしまった。
「えっとぉ、ごめんなさいね、それに誘拐だなんて、あっ、・・・確かにこれって誘拐になるのかな?」
相変わらず明るくのんびりした口調でしゃべってくるので頭を抱えいら立つのを抑えてから、
「とにかく、元の場所に返してよ、せっかく楽しみにしてた小説が久しぶりに更新してて、帰って読むのが楽しみなのに」
「ごめんなさいね、あなたはもう戻れないの」
「はぁ?戻れないって何よ」
「落ち着いて聞いてね、あなたは死んじゃったの・・・」
「はあぁぁ?」
『死んだって何?私普通に家への帰り道だったじゃない、ってか死因は?そもそも私いま生きてるじゃん』ぶつぶつ言いながら考えていると突然体を揺すられて顔をあげると、少女が「最後まで聞いてね」とマンガならおでこに青筋や怒りマーク沢山、みたいな顔で凄んできた。
「は、はい」
勢いに気圧されてつい返事をしてしまった。
少女は最初のような口調で喋り始めた。
話が長かったので簡潔に言うと、私は原付運転中に時空の歪がある場所に行く、少女が修復中に通過したものだからその衝撃で頭がもげて死亡した、そしてその魂をこの少女が回収、そして今に至る。
「って死亡の原因はあなた?」
「えっとぉ、・・・テヘペロ?」
「テヘペロじゃないわよ、そもそも死んだとかいう割には私ここでぴんぴんしてるじゃない」
「今のあなたは魂だから」
「そう言えばそんなこと言ってたわね、んで?ここはあの世への入り口であなたは閻魔様って事かしら?」
「私は女神なのです、偉いのです、えっへん」
女神はない胸をいっぱい逸らしてドヤ顔で答えてきた。
「そうなの、もう何言おうとも驚かないわよ、で?その偉い女神様が私の魂を拉致誘拐してどうするのかしら?」
「よく聞いてくださいました、いよいよ本題に行けるわね、アナタは今からみんな大好き異世界転生をします」
「うんうん、ファンタジー小説あるあるの魂拉致して異世界に放り投げですね、それで私はどこに拉致されて放り出されるのかしら?」
「なんかどんどん私への態度が冷たくなっていきますね、これでも私女神なのに・・・」
「まあ自分の胸に聞いてくださいな」
そういうと女神は自分の胸に視線を落としてから「無い胸には聞けません」と落ち込んでしまった。
その後復活した女神から行く世界は異世界転生ファンタジー小説あるあるの剣と魔法の世界で魔物も居る中世ヨーロッパ風な、いわゆるナーロッパの世界だと聞く。
そして色々と交渉(凄んで威圧してはいませんよ、たぶん)して異世界転生ではテンプレのマジックボックス(インベントリー)にアイテム作成と全魔法を使えるようにしてもらい、年齢は15歳に、そして異世界で私がすることは女神信仰に背くこと以外なら自由にして大丈夫と言質を取った。
「それでは、ケイコちゃんの異世界ライフに幸あれ」
女神パルミールが言い終わるとまぶしい光に包まれて高速エレベーターで降りる時の様な浮遊感の後に光が収まった、目を開けると周りの景色が森に変わっていた。
「あー本当に異世界なのかなここ」
ひとり呟きながら辺りを見回してから、アイテムボックスを開いて大事な事を忘れたとその場でうなだれた。
アイテムボックスと思うだけで使えると言われたので使うと、頭の中に『アイテムはありません』の文字が・・・。
「だ~っ!!食料やら着替えやらキャンプ道具やらお金やら貰い忘れたじゃない、パルミールさーん、今からでもいいから送ってもらえないかしら・・・」
しばらく待っても返事はおろかアイテムボックスは空のままだった。
「ですよね~、あきらめます、ぐすっ」
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