第12話 料理コンテスト本戦


「それでは、アブド領花吹き祭り特別イベント料理コンテストを始める」

「「「おぉぉ」」」


花吹き祭りの開始セレモニーが終わると、料理コンテストの開始を宣言する、19組のグループが広場に用意された20個のテーブルと簡易かまどに散っていく。

かまどには前もって火を入れてあるので、各グループお湯を沸かしたり食材を切ったりと忙しく動いている、それを見ている観客もどんなものができるのかと固唾をのんで見守っている。


「どんな物が出てくるのでしょう?」

「お姉さま、私も楽しみです」


二人の王女は目を輝かせ各グループの作業を楽しそうに見つめていた。


開始セレモニーでは最初から二人を壇上に呼んでいて見物客から「領主様の婚約者か」「新しいメイドさんか」とヤジが飛んだが二人が王女殿下だと知ると、全員静まり返り膝まづく一面もあったが、王女本人たちもあまり気にしてなさそうに笑顔でいたのでそのまま進めて問題なく終わった。

その後の料理コンテストの特別ゲスト審査員もやると分かるとコンテスト参加者の一部が発狂したりこれはチャンスと目を輝かせる者など様々だった。



調理が終わったようなのでアリサと王女殿下の侍女が各グループごとに料理を運んでくる。


「まずは1番、領民猟師チームの料理からです」

「見た印象は、肉を焼いてソースをかけただけって感じなのですが、なにか工夫があるのでしょうか?」


ケイコとベックがうまいこと司会をしてくれている、観客も出てくる料理に「そんなもん俺だってできるぞ」とヤジが飛ぶ。


「それでは、王女殿下と領主様には審査をしてもらいましょう、最初に説明しましたが審査は一人10点で30点満点で評価していただきます」

「最初なのでこれが基準となっていくのでしょうか、そうなると審査員にもプレッシャーになるのかもしれませんね」


司会の言葉にまず俺が食べる。肉は焼きすぎて冷めていて硬い角ウサギの肉にソースをかけただけで、はっきり言ってまずかった・・・。

横を見ると王女殿下二人は顔は笑って食べているが、目で「これは美味しくないですわ、どうしましょう?」と語りかけていた。

おれは司会のベックに目配せすると、気づいてすぐに採点にうつってくれた。


「それでは最初の料理、何点でしょうか、審査員の皆さん点数をどうぞ」


テーブルには最初から1から10の数字の書かれた紙が置いてありそれを出して採点するという方式だ。


「えっと得点は全員1点、合計3点です、最初から最低得点が出ました」

「まあ調理を見た限りでは、最初に肉を焼いてソースをかけて終わりで他の人が終わるのを待っていた状態ですので、冷めていて硬くなっていた可能性がありますよね、妥当な得点だと思いますね」


三人の得点を見て観客は「やっぱりな」「そうなるよな」と笑いが起こった。


「さて気を取り直して次の料理に移りましょう」


次の料理は一般参加の王都ローライ中等学園のグループだった。

出てきたものはスープ?にしては汁が少なく真っ黒な肉と根菜が皿の乗っていた。

一口食べると、ものすごいしょっぱい、そしてあとからソースが焦げた苦い味が広がってきた。

説明を聞くとソースが具材にしみこむまで煮込んだ料理のようだった。


おれは我慢できなくて手元に有った果実酒を飲み干す。

王女たちは果実ジュースを一口飲んでから「これはソースを薄めて焦がさないように気を付けたらおいしいかも」と言っていた、俺も確かにと思いつつもまだ口の中に残っていた苦みに顔をゆがませた。


点数は合計で5点だった。


それからも審査は続いて行き17組まで終わって最高得点は21点、残り2組となった。

ちなみに料理を出す順番はコンテスト開始の説明では順番は決めていないと言っていたが、実は予選をしたベックとケイコの指示で、おいしい物を後半にという順番で出したという事を後から聞いた、今はそんなことを知らない俺と王女殿下は徐々においしくなっていく料理に残りの2組の料理が楽しみとなっていた。


「さてコンテストも残り二組、ちなみにこれまで審査が終わったグループのあまった料理は観客の方々にお配りしますので、欲しい方は後程所定の場所で受け取り出来ますのでをお楽しみに、それでは次の審査に参りましょう」


時折客への説明もまぜつつコンテストは進行していく。


18組目は領民主婦Aグループ、普段から料理をしている主婦の集まりで期待ができる。


出てきたものは、大きな焼いた肉の塊がお皿に乗っている物だった。

最初のやつとどう違うんだ?と思いながらもナイフを入れるとすーっと切れた、切り口は薄くスライスしたお肉に野菜を乗せまた肉を乗せるそして別の野菜を乗せてまた肉を乗せる、それを繰り返して野菜5種類で5層になっており、仲間で十分に火を通すように焼いてあり、ソースを付けて食べるためソースが別のお皿に入れてあった。


一口食べると薄くしたお肉が柔らかく肉汁を吸った野菜にソースがうまくからみ合っていて、すごくおいしかった、これは今までで一番美味しいダントツかも、と思いながら完食すると、王女殿下たちもほっぺたに手を当てて味わうようにうっとりしていた。


得点は9,10,10の29点、俺が9点の訳はこの次の料理に期待しての9点だった、これが最後だったら10点出していたかもしれない、というほどの出来だった。


採点が終わると客が一斉に18組目の料理を求め、受け渡し場所では食べた者たちから歓声と「うまい」「さいこうだ」と声が聞こえてきた。


「さて次でコンテストも最後の料理となりました、それではどうぞ」


ケイコの言葉にアリサと侍女が運んでくる、お皿の上には茶色い一口大の物がいくつか乗っているだけで、ソースがかかっていたり別に用意されているわけではなかった。

口の中に入れてかむとサクッとした感触の後に肉汁とほんのりソースの味が口の中に広がっていく、茶色い表面の中には鶏の肉が閉じ込めてあった。

ひとつもうひとつと気づけば皿に乗っていた料理が無くなっていた。


「何だこれは、表面はサクサクで中の肉はしっとりでじゅわーっと肉汁とソースが広がって、おかわりがほしくなる」


王女殿下も同じ気持ちだったようで目でもっと頂戴と言っていた。

採点は30点満点で優勝だった。


あとでケイコから聞いたが唐揚げという物で肉に水で溶いた小麦粉などで膜を作り油で揚げたものではないかと教わった。


優勝グループは聖皇国から王国に派遣されていた王都の教会の聖職者のグループだった。


表彰式では3位21点の領民主婦Bグループ、2位29点の領民主婦Aグループ、そして1位30点満点の王都教会グループ、の表彰とテリヤキソースをプレゼントする、優勝者には小ツボ2つ、2位と3位には1つづつ。


そして残った料理は会場にいた客たちにふるまわれて客たちも満足そうで笑顔になっていた。

余韻収まらないという状況で料理コンテストは終了して、その後の広場は上位グループが料理をつくり販売、即席で出来た屋台はお酒の販売もあり大宴会場となった。


「みんな楽しそうに笑顔で幸せそうだな」


片づけを終えて屋敷に撤収しようとしていた俺の言葉にアリサ、ベック、ケイコ、は頷き、「わたくしもまた参加したいです、今度は作る方で」とミリア王女殿下も笑顔で答えていた。


俺はケイコが来る前のアブド領を振り返り、冬には凍死者や餓死者をだし、普段は元気なく娯楽も楽しみも無く、ただ一日仕事をして家に帰り寝るだけの領民だらけだった。


今じゃ食事に工夫したり、畑も収穫も目に見えて増えて喜び、子供たちも勉強できる喜びや将来の夢などを語るようになった、そして何より料理コンテストの様な娯楽の楽しさを覚えた領民はこれからも楽しみを求めて生きていくのだろう。


と考えていると、


「リゲル様、どうされましたか?早く帰りましょう、私もお腹が空きました」

「そうだな」


とケイコが寄ってきたので振り向き屋敷に向かって歩き出す、そしてケイコの背中を見ながら「ありがとう」と小さな声でつぶやいた。














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領主になったけど辺境で貧乏で手に負えません12話、読んでいただきましてありがとうございました。

この話で第1章終了とさせていただきます、書き溜めているストックが少ないのでしばらく間隔は空きますが、この後閑話を挟んで第2章開始します。


読んで感想や評価していただけたら嬉しいです。

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