第11話 花吹き祭りと料理コンテスト開催


年も空けて冬を超え寒さが和らいできた3月に入ると、町は花吹き祭りの準備でにぎわい始める。

花吹き祭りは無事に冬を超えれたことを女神に報告して感謝する祭りで、この国では平民は毎年3月の末日に年を取ると言われており、誕生祭も兼ねている。

それに加えて昨年秋にはケイコの指導の元に腐葉土を畑に撒いたこともあり、収穫が領内で前年度の二倍近くもあり、今年の冬は凍死や餓死者が出なかった、みんな花吹き祭りにかける意気込みは半端ない。

さらに今年はテリヤキソースを使った料理コンテストもやるのでいつも以上に張り切っている者が多かった。


町を歩くと「ケイコ様はこの領の救世主だ」とお礼を言われ拝まれるのが日常になった、そのたびに俺も感謝の念を込めて拝むのだが、その都度怖い顔で睨んでくる・・・。


祭りはタンポポを模した細工物を各家々で家族人数分を作り玄関に飾る。

なぜタンポポかと言うとアブド男爵家の紋章にタンポポの花が彫られているから、尊敬や忠誠を誓って飾ったのが始まりとされている。


タンポポが彫られた所以は、どんな土地でも芽が出て咲く、大量の種を作る、そして風に乗ってどこまでも飛んでいき芽を出す、ということから、不毛な土地でも生きていこうという決意、子宝に恵まれるという思い、領地の発展と拡大を願う、の意味合いがあるのだと伝えられている。


とまあ話は逸れたが、領地で収穫祭より賑わうお祭りとして代々続いているのでみんな楽しそうである。


そして俺等は、なぜかハンバーガーを食べに来ましたと言って突然来訪した第4王女と第5王女の相手で忙しい。

第5王女は側室の子でオリビア・ローライ、薄茶色の髪の毛にオレンジの瞳で今年12歳となる。


「私たちは料理コンテストの準備で忙しくてですね」

「あら、それならわたくしたちもお手伝いいたしますわ、ねぇ~、オリヴィアちゃん」

「はい、お手伝いさせていただきます」

「ですが王女殿下お二人にお手伝いさせるなど国王様に私が怒られてしまいます」

「お父様は関係ありませんわ、私たちがお手伝いしたいのですから」

「そうですわ」


って来てからずっとこの調子である。

最初は第5王女にもハンバーガーを食べさせたいと言ってきたのに、花吹き祭りの開催に合わせて来てる時点で、料理コンテストも知っていて参加する気で来ている確信犯である。


そういえば前回の訪問されて帰る時に何やらいたずらを考えている子供のような顔してたのはもしかしてこれの事だったのでは?とか思ってしまうほどタイミングばっちりな訪問である。


「それでは、特別審査員(とりあえず座らせて何か食わせとけば静かだろう)として料理コンテストのゲスト(呼んでないけど来た)、という事でよろしいでしょうか」

「「はい」」


もう何を言ってもダメだとあきらめた俺は二人の王女を審査員として参加させることを決める、『もうどうなっても知らないからな』。



そして前夜祭の日が訪れた。

前夜祭と言っても特に何かするわけではなくて、ただ飲みたい人たちが勝手にそう呼んで夜通し飲み明かすだけである。


俺たちは朝からコンテスト参加者の確認のため参加当選証を確認して参加費を受け取り腕章を配っていた。


「明日は会場調理室の入り口でこの腕章を見せてからお入りください、テリヤキソースを購入希望の方は広場にあるマッツォ商会にてご購入お願いします」


グループごとに注意事項の紙を見せながら説明していく、領民の参加者はあらかじめ準備で忙しくなる前にケイコ、ベックの審査で予選を開催、10組迄絞った。


日が暮れて領民以外の参加者の受付も終了、9組の参加者が受付を済まして1組は来て無いようだった。

一応参加当選証には受付は前日の日暮れまで、それ以降の受付は許可しないと書いてあるので、来なかった1組は不参加となった。


「さて会場の下見と不備がないかの確認してから帰るか」

「はい」


俺は手伝ってくれていたベックに声をかけてコンテスト会場を回り確認してから領主館に帰った。


前夜祭という事で町のあちこちに松明を掲げているので建物が明るく照らされていて、その下では前夜祭という事で宴会が繰り広げられている、前日の松明で明るくするのはこの呑兵衛たちが危なくないようにとの配慮から、町の人たちが付けたのが始まりで、気づいたらすべての建物が松明を掲げるようになって、今ではこの宴会と一緒で花吹き祭り前日の風物詩となっている。


見回りも終わり館に帰ると、王女の相手を任せていたアリサとケイコが執務室のソファーで疲れ果てた顔でテーブルに突っ伏していた。


「王女一人でも緊張して神経使うのに、二人とかむりだよ」


ケイコの言葉に俺はお疲れ様とすまんしか言えず、ベックはケイコから教わったという、疲労回復効果がある、カモミール、セージ、マテグリーンを配合したハーブティーを作って2人に差し出していた。

それを見てやっぱベックだな、俺も見習わないとな、と思うのであった。


ちなみにハーブは町の周辺や深樹の森、東の領境の林に生えているのを見つけて集めている、なんでも料理に使えたり薬になるような物も有るとか・・・。


そして台風の目の様な王女姉妹はというと、日中騒ぎまわったおかげか夕食を食べて日が暮れると眠りについたそうだ。


「じゃあ俺らも食事して休むか」


俺等は食事をして各々部屋に戻り休むのであった。














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