第9話 王女殿下とケイコ
すぐにアリサはケイコを連れて執務室兼応接間に戻ってきた。
「お待たせしました、ケイコ様をお連れ致しました」
扉を開けてお辞儀するアリサの後ろにはケイコが立ち同じようにお辞儀をしてから部屋に入ってきた。
「王女殿下、私はケイコと申します、この度はこのような者にお声をかけてくださるという事でありがたく思います」
「ケイコ様、私はローライ国王の4女でミリア・ローライです」
王女殿下とケイコはお互いに挨拶を終えるとソファーに座って本題を話し始める。
「今日はテリヤキソースなるものを開発作成したケイコ様にお会いしたくて来ました」
「わざわざこのような遠い場所まで私にお会いに来られるとは、ご足労をおかけして申し訳ありません」
ケイコが言うと王女殿下は、
「それだけの価値があなたとこの領地に有ると、私自身が判断したことですから」
と微笑みながら答える。
その後王女殿下はアリサやベックを見たので、二人に部屋の外で待っていてもらうように指示を出す、王女の侍女とベックとアリサが部屋から出ていったのを確認すると、
「アブド男爵様、お気遣いありがとうございます」
王女はそう言うとケイコをみて話し始める。
「ケイコ様は御使い様ですか?、それとも異世界から来られた『時を超えし者』ですか?」
「「えっ」」
王女殿下の言葉に驚いた俺とケイコの声がはもった。
「驚くのも無理有りません、時を超えし者、というのは王家の者でも一部の者しか知らない事なのですから」
「そのような事をこんな弱小貴族の私に教えても大丈夫なのですか」
慌てて王女殿下に聞くと、ケイコ様にここまでかかわっているのですから男爵様も知る権利がございます。と言われた。
そして時を超えし者の事を話し始めた。
御使い様は光の柱により女神様より使命を得て地上に舞い降りると言い伝えになっているが、時を超えし者も御使い様と同じように現れ、各方面にて多彩な力や知識をもち人々を驚かせるという。
過去にも様々な方が時空を超えこの世界に来た、歴史上最初に確認されたと言われているのが権利保護組合を作ったユウジ・タカナシで、にほんという国から来た青年だったという。
最近では180年程前にローライ王国の王家が保護した、いぎりすという国から来たオリバー・スミスが居るという。
ユウジ・タカナシは組合設立と周知に生涯をささげたと記録に書かれていて、オリバー・スミスは女神よりこの世界に降臨されて、御使い様として女神様との会話をすることで聖皇国の初代聖皇としてパミル聖皇国を作り、数々の御神託を賜れたという。
王女殿下の話を聞いて、ケイコは何やら隣でぶつぶつ言っていたが、
「私は王女殿下の言う時を超えし者かもしれないですが、御使い様ではないかと思いますよ」
そういうと、この世界に来たいきさつを話し始めた、その中には俺も聞くに聞けなかった事もありただただ驚くばかりだった。
王女殿下はケイコの言葉を真剣に聞き、終わると笑顔になり、
「ケイコ様の素性や事情が分かりました、私はただそれだけが知りたかったので、来てよかったと思っています。聞きたいことも聞けたので私は宿を取ってハンバーガーとやらを楽しんでからこの領地を少し見て帰ろうとおもいます」
といって席を立とうとしたので、わざわざ宿に行かずに領主館にお泊り下さいとお願いする、王女殿下が領都に来て下さったのに宿に泊めたと他の貴族が知ったらどうなるか分かった物じゃない。
ケイコも慌てる俺を察してくれたのか、お泊りの間は異世界の料理をお出ししますと援護射撃をしてくれて、王女殿下は了承してくれた。
その日の晩ご飯はテーブルに王女殿下と俺とケイコの三人だけが付き、アリサと王女様のお付きの侍女が料理を運んでいた。
メニューはハンバーガーに、ポテトフライといってどの領地でも作っている芋を切って油で揚げて塩をまぶしたもの、それに果実ジュース、が並んでいた。
ケイコが料理が揃った時に「こちらの食事は私の世界の若者が好んで食べるメニューになります」と説明する。
王女殿下は本場のハンバーガー、しかも時を超えし者であるケイコ自ら作った事に感動して「おいしいです」とはしゃぎながらいくつもお替りをしていた。
それを見ていた俺は王女殿下のかわいらしく年相応にはしゃぐ姿に見とれて最初に出された料理だけでおなか一杯になってしまった。
ケイコもおいしそうにほおばって食べる王女殿下を見て微笑ましく眺めていた。
翌日王女殿下が来る時に見た畑をよく見たいと仰ったので畑を見に行くことにした。
「来る時にも見ましたが、こちらの畑は肥沃な土地ではなさそうなのになぜこのように大きく育っているのですか?王都周辺の肥沃な土地より育っているように見えるのですが」
いくつかの畑を見た後に王女殿下が聞いてきた、俺がこれはケイコの指示で土に森で採取した腐葉土まぜて育てたから、と説明すると腐葉土とは何ですか?それは森のどこにあるのですか?と目を輝かせながら食いついてきた。
ケイコが説明すると侍女から紙とインクとペンを受け取り一字一句すべて書き写しては細かく質問していた。
昼は畑の隅でシートを広げてサンドウィッチをほうばってはこれはハンバーガーとは違うのか?とケイコに聞いてはまたメモを取っていた。
一日かけて畑を見学して屋敷に戻り、晩御飯はハンバーグに芋とニンジンを煮た付け合わせが添えられて、前にケイコが作ってくれたトマトのスープのミネストローネにパンが出てきて、これも異世界の料理、と目を輝かせてはしゃぎながら頬張っていた。
そして数日滞在した後、王女殿下が王都に戻る日の朝。
「ケイコ様が時を超えし者という事は私と男爵様とケイコ様だけの秘密という事にしていてくださいね、そうしないと王家が動いて面倒なことになってしまいます」
と俺に耳打ちをして、とても楽しかったです、また来ますね。とウィンクをしていたずらを考えている子供のような笑顔を見せて、馬車に乗り、町の宿に泊まっていたのであろう護衛の兵士数人と王都に帰って行った。
「なんだか彼女は王女様っぽく無かったわね、無邪気な子供って感じでかわいかったわ」
「俺が前に一度だけ見た時は無表情でどこか冷めてて周りに壁を作ってるって感じだったな、あの時と今回の王女殿下が全く別人な雰囲気で驚きつつも楽しかったよ」
俺とケイコは馬車が見えなくなると屋敷に入り、執務室のソファーに座り数日の緊張から解き放たれて疲れたともたれ掛かる。
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