第8話 料理コンテスト受付と王女殿下


「料理コンテストの告知を行います」


ソース売りで町や領民は賑やかになって半年がたった、町の東に新たに作った畑でも最初の収穫が終わり、そろそろ頃合いだとケイコが言い出す。


「いよいよか」

「はい、いよいよです」


ケイコを中心に4人で細かな話し合いをしていく。


参加資格は領民(予選有り)、それ以外は書類審査ののち決定、参加費は領民グループは無料、それ以外はグループで銀貨1枚。

参加費は参加資格を得て当日徴収する、これは不測の事態などで参加できなかった場合、無駄になってしまうのを避けるためである。


ルールはテリヤキソースを使う、一品だけ作る、メンバー以外からの助言は禁止。


参加希望者の募集期間は告知後から3カ月間、書面にてリーダーとメンバーの名前、それと料理歴に意気込みを書いて提出。


開催は春(3月)の花吹き祭り(アブド領で行われる春の訪れを女神に感謝する祭り)の会場


審査員は領主・ケイコ・アリサ。


点数制で上位3グループにはテリヤキソースのプレゼント


と大まかな概要を決めた、最初に考えていたソース無料提供権に関しては一般参加も受け付けるため却下となった、審査員以外は確定という事で告知の準備に取り掛かる。



告知した後、町のあちこちからいい匂いや明らかに失敗しただろうと言う匂いが漂うようになった。


「俺、料理審査で死ぬかも」


死を覚悟する程のやばい匂いを嗅ぎながら、俺はつぶやく。


「あはは、明らかにやばいのは食べないで失格すればいいのよ」

「それもそうか」


最近は街中を歩いているとまだ働けない年の子供たちが集まってくる、それもケイコが手が空いた時に領主館の庭で勉強会を開催しているため、ケイコに勉強会以外でも勉強を続けて読めるようになった文字などを報告するために集まってくる。


「けいこさま、ぼくここまで読めるようになったよ」「わたしは書けるようになったもん」「わたしは計算も出来るようになったよ」


集まってきては口々に言う子供たちにケイコは笑顔で一人づつ「すごいねー」「それはえらいねー」と頭を撫でながら聞いていく。


最初子供たちの勉強会をすると聞いた時はそんなことしてどうなるのかと思っていたが、ケイコが言うには平民の中にも優秀な人は生まれる、勉強することで才能が開花して将来的に領の中核を担う子が出るかもしれない。

それが政治なのか商売なのか農業や職人かは分からないけど、領の発展のためには必要な事。


と言われて許可したのだが、半年もすると子供たちも得意不得意が分かってきて、不得意な事をがんばる子、得意な事を伸ばそうとする子、など性格も相まっていろんな子が出てきて見ていて面白かった。


しばらく子供たちと話した後、俺たちは領主館に戻るとまた参加者の選別の為届いた書類に目を通す。


3か月後に協議の結果、決定した10組には参加資格合格の書面を送る。

大変な作業が終わって俺は執務室でつかれたーと愚痴りながらゆったりとしていると、ベックがノックをすると同時に扉を開けてきた。


「リゲル様、大変です」

「ベック何慌ててるんだ?とりあえず落ち着け」


そう言うと水差しから水をコップに注いでからベックに渡す、受け取ると一気に飲み干してから。


「ありがとうございました、それでお客様でして・・・・」

「ん?客なら早く言えよ、待たせるのも悪いからすぐ通せ」

「えっとそれがですね」

「なんだ?何か問題のある客なのか?」

「いえ、実は来たのは第4王女殿下様で・・・」

「ぶふぅ~」


第4王女と聞いて俺は飲みかけた水を噴き出してしまった。

そもそも王族がこんな辺境の田舎領地に来ること自体が奇跡なのだ、俺がびっくりするのも無理はない、よな・・・。


「ばかたれ、王女殿下様ならすぐ通さないとだめじゃないか」

「えっとそれがもう扉の前に」

「はぁ?なんで待たせてるんだよ」


俺は自ら扉を開けると、そこには金色の綺麗な髪に王族特有のオレンジの瞳、そしてまだあどけない顔の少女が立っていた、前にお城で行われた10歳のお披露目も兼ねた誕生会で見ただけだったが見間違えるわけもなく、その人はまさしく13歳になったばかりのミリア王女殿下だった、俺と目が合うと静かにゆっくり、そして綺麗なカーテシーをして、にこっと笑顔になる。

そして後ろには王女より少し年上のメイド服の少女が二人静かにお辞儀をしていた。


「ミリア王女殿下、お待たせして申し訳ございません、さあこちらへ、侍女の方々もどうぞ」


そう言って席に案内すると同時にアリサがどこで用意したのか紅茶を入れたティーカップを王女の前に置く、侍女の二人はソファーの後ろに立っていた。

王女はにっこり笑ってありがとうと声をかけて、紅茶を一口飲む、その綺麗な所作に見とれてしまった。


「ご存じのようですが、私はアントン・ローライ王の4女のミリア・ローライと申します」

「俺、いや、私はリゲル・アブドで、アブド男爵領の領主です」


本来は目上の人に先に挨拶させるものではないと教えられていたのだが、つい見とれてしまい先に挨拶されて慌ててしまった、王女は慌てる俺を見ていたずらを成功させた子供のような顔をしていた。


「それで今日は、王女殿下自らこんな地方の領に?観光にしても何もない所ですが」

「そうですね、ハンバーガーの本場で本物のハンバーガーはアブド領でしか食べれないと聞きまして」

「あ、ハンバーガーですか、それではすぐ用意させていただきます」

「いえ、今すぐでなくていいのですよ、私はしばらくこの領に滞在させていただきますので」


『えっ、いましばらく滞在するって言ったか?』王女の言葉に自分の耳を疑った、ハンバーガーのためだけに長期の滞在をしようとかどういう事なんだ、と少し混乱し始める。


「今回の訪問は新しいてりやきそーす?ですか、それをお作りになった方にお会いしたいと思いまして、ハンバーガーはついでという事です」

「分かりましたすぐに呼んでまいります」


俺の言葉とほぼ同時にアリサが部屋を出てケイコを呼びに行った。











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