第7話 悪徳商人と特許システム
水車の依頼をした翌日、ハンバーガーと秘伝ソースのうわさを聞き付けた隣の領の商人がやってきた。
「これはこれは、お隣の領の商会オーナー様がわざわざこんな辺境の領地にお越しとはどうされましたか?」
「またまた、アブド男爵様はおとぼけがお上手ですな」
どうせソースを売れと来たのだろうと思い話を切り出す。
「これは失礼、ハンバーガーのうわさでも聞きつけ我が領に食べに来られたのかな?」
俺からハンバーガーと聞いて一瞬目の色が変わった『ですよねー』と思いながら会話を続ける。
「ホアドさんは食べられましたか?」
「アブドール村に着いてすぐに頂きましたよ、あれはとてもおいしかったな」
「うちで開発しまして、アブド領あげての名産にしようかと思っておりますよ」
「ほう、ですがこんな辺境の田舎にはもったいない物ですけどな」
相変わらずうちの領を見下してくる嫌な奴だな、と思いながらも顔色を変えずに対応する。
「そこで私どもにあのソースのレシピを教えていただければこの国、いや、この大陸中に広げて見せましょう」
「『本題が来たな』それがレシピは秘伝でしていくらお金を積まれても良い話を持ってこようとも教えることはできません、現物を売ってくれというのでしたら多少はお譲りできますけど、どうしてもレシピをというのでしたらお帰り下さい」
「なんだと、こっちが下手に出れいれば若造が調子に乗り追って、ワシはイージ子爵家のお抱え商人だぞ、逆らうとどうなるか・・・」
「『あーあ、子爵様の名前まで出しちゃったよ、終わったなこいつ』そうですか、というと本日の事はイージ子爵様の命令という事でしょうか?。でしたらイージ子爵様は権利保護組合を敵に回す覚悟があるという事なのですね」
「は?若造が何訳わからん事を言ってるんだ、何でそこに組合が出てくるんだ」
もうネタばらしするか、とため息をつきながら仕事机の上にある書類を持って来て見せる。
「これは、あのソースはアブド領の者が開発して作成アブド領発祥の物で、販売と作製は開発作成者が指定した者のみが執り行うという権利保護組合の会長自ら署名された正式な特許と販売独占認定書類です。あなたも商人ならこれがどのような効力を持つかはお分かりですよね」
書類を見せるとホアドはみるみる顔が青ざめてアワアワと慌て始めた。
俺は入り口に立っていたベックを見ると、
「お客様のお帰りだ、丁重に送り出してくれ」
「わかりました」
さすがにこれ以上は話にならないだろうとホアドのお付きの物がホアドを抱えるようにソファーから立たせると連れていこうとした。
「そうそうこの会話は組合の方に書面でお伝えしときますので、イージ子爵様にもよろしくとお伝えください」
そう言うと振りむかずに逃げるように部屋から出ていってしまった。
しばらくするとアリサとケイコが来て、ベックも戻ってきた。
「リゲル様、いつの間に特許申請などされてたんですか?」
「ん?そんなのハンバーガーを食べた翌日にケイコ殿と相談して王都の組合本部に早馬を出したに決まってるだろ。これからもああいうやつが湧いてくるんだ、そういったやつらからケイコ殿を守る為ならこれくらいしないと神罰が怖いからな」
俺は笑いながら説明するとアリサとケイコも頷いていた。
「でもこの国にも特許のシステムがあるとは思いませんでしたよ、それに私の国の特許とはまた違うようですし」
画期的な発明などをすぐに真似られ、貴族に搾取されたりが横行してた頃に中立的な大陸全土に支部を持ち各国の王族でも手出しのできない権利保護組合が出来、特許システムが出来たのだ。
権利の期間に関しては20年有効となる。
ケイコにすぐにでも登録しろといって現物と申請書類を送ったところ半月ほどで認可が下りたという訳だ。
そして先ほど言っていた効力とは、特許と販売独占権の権利を守るための規則に、権利所得者に対して権力又は暴力などを使った威圧行為をした者とそれを指示した者は、いかなる事情があっても処罰の対象となる、という項目がある。
それによって開発や販売者の身の安全と財産を守るという意図がある。
ちなみに規則を破った者に対する罰則は軽い物で罰金刑、それを被害に遭った権利者と間に入った組合で半々にして分けるもので一番重いので全財産没収・一族郎党処刑になる。
過去に帝国の侯爵家が開発者の家族を誘拐して開発者をおどして誘拐した家族を殺害したとして、その侯爵家一族郎党処刑になった事例がある、それからは重い処刑者は出ていないが、前例があるだけに抑止力は十分だ。
「数百年前に現れた女神の御使い様であるタカナシ様が組合の基礎を作りこのシステムを作ったと伝えられているんだよ」
「そうなのですか、御使い様ですか」
ケイコは御使い様という言葉に反応していつもと同じように考え込んでしまった。
ちなみに先日制作依頼をした水車は御使い様であるタカナシ様が伝えたとされるが、構造などを完全秘匿にしていたために数百年の時の中で直せる者も作れる者も居なくなりこの世界から消えたと俺は授業で習っていた。
そしてすぐにイージ子爵様の指示でホアドがレシピの提供を強要してきたことを一部始終書面にしたためると早馬で王都の組合本部に送った。
数日後にイージ子爵から『ホアドの独断であって、子爵家とは関係がない』としたためた書面が送られてきた。
「なんだかトカゲのしっぽ切りって感じがしますね」
「なんだそのトカゲのしっぽ?っていうのは」
「えっとですね、責任を下の者にすべて押し付けて上の者が責任を負わないようにすることですね」
「貴族がよくやってることだな、まったく上に立つものなら少なくとも責任があるもんだろうが。そもそも下の者がそんな事を勝手にやれるとか監督不足で、私は仕事してないか出来ない無能者だと言ってるような物じゃないか、上がそんな腐ってたら下はもっと腐るだろうが」
俺の言葉にアリサとベックは頷きケイコは何か言いたそうに俺を見ていた。
ホアドが問題を起こしてからは貴族の使いの者や商人たちがテリヤキソースの購入を求めて面会や商談に大量に訪れるようになった、町の宿は前もってけいこの指示で増築と新規でもう一軒建てて従業員も増やし、お金のある者は値段を高く設定した新館に、お金を節約したい者や新館に泊まれない者は増築した旧館へと、住み分けも出来ているようだった、なので泊るところがないということはなく繁盛していたので来年の税収が跳ね上がるだろうとベックが喜んでいた。
ちなみにどっちの宿の食堂でもハンバーガーはメニューにあるのでどっちに泊まっても食べられるようになっている。
ソースは一グループにつき300ミリリットル入りの小ツボ一つだけとして、値段も金貨3枚、最初はその金額に渋る者もいたがそれもまだハンバーガーを食べていない者たちで、食べた者たちはそれ以上の価値があると素直に購入していった。
材料の確保のためにうちの領内に昔からよく来てくれる行商人を指定して定期的に仕入れているのだが最近は他領で胡椒と砂糖が値上がりしてきているという情報も耳に入ってきた。
ケイコはある一定の金額まで上がったら買わずに仕入れを止めていいと行商人に伝えてあり、胡椒と砂糖などのソースの材料の在庫も十分あるとのことだ。
「すごい人気だな」
「そうね、ここでしか手に入らない、しかも一度で少ししか手に入らない、そしてそれはとてもおいしいとなれば、噂が噂を呼んで話題になるわよね」
「聞けば王都ではもうハンバーガーもどきが銀貨5枚で売られているとか」
ベックが話した内容を詳しく聞いたら、ハンバーグではなく焼いた肉や燻製肉をそのまま挟んだいわゆるサンドウィッチをハンバーガーもどきとして売っているそうだ。
それを俺たちは笑って聞いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます