第6話 水車と水路


畑を作ってから数日、町にはハンバーガーを目当てにした商人達を見かけるようになった。

町の宿屋兼食堂のおかみは「休む暇がなくなって大変だ」と嬉しい悲鳴を上げていた。

宿屋の食堂にはハンバーガーをメニューに出すようにしてもらい、秘伝ソース(正式名テリヤキソースとケイコから聞いた)を卸したが小さい壺(約300ミリリットル入り)で定価金貨3枚の予定の物を材料費にちょっとだけ利益を入れた小金貨1枚(材料の胡椒と砂糖が高価なので材料費が高いのは仕方ない)という破格の値段である、住人用は最初に配ったものがまだいっぱいあるらしく購入に来たものはまだ居ない。


「ところでこの国のお金って私良く分からないのですけど・・・」


ケイコに言われて『海の向こうの国から来たから分からないのか』と教えることにした。


「お金なんだが大陸のどの国でも同じものを使っている、だが国によって価値は変わるので注意が必要だ、例えばパンひとつにしてもこの国では銅貨1枚で2つ買えるけど帝国では銅貨1枚1つだったりする」


種類もしたから銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨、があって10枚づつで一つ上の貨幣の価値になることを伝えると、何やら考えながらぶつぶつと言いながら考え込んでしまった。


「わかったわ、ありがとう」


考えがまとまったのかお礼を言ってきた。


「それで今日は私を呼び出して何か用なのかしら」

「ああ、そうだ、もしかしたら知ってるか聞きたいことがあってな」

「なにかしら、答えれる事ならいいけど」


ケイコはにっこり笑うとアリサの入れてくれたお茶を飲んでいた。


「俺は見たことはないんだがすいしゃ?ってやつがあるって聞いたことあるんだがケイコ殿は知っているか?」

「水車ね、知ってるわよ、それがどうしたのかしら」


なんと知っていると、それなら話が早いと相談することにした。


「実はこの地図を見てほしいんだが」


俺はこの町と周辺の簡単な地図を机に広げる


「この前作った畑なんだがどうしても川や井戸から遠くて水を運ぶのが大変なんだ、そこで昔習ったすいしゃって物があると聞いたことがあって、それなら水を遠くまで運べることを思い出してな、作りたいんだが見たこと無くてどんなものなのかもわからなくて、だからケイコ殿の知恵をお借りできたらと・・・」


この領地の川は町の西側にあるだけで東に作った畑は町の井戸で水を汲んで運んでいるので遠いい畑ではそれだけで一仕事になってしまっていた。


「そうなると揚水水車と水路で東の畑近くにため池を作るのがいいかもね」

「ようすいすいしゃ?なんだそれは」


いきなり聞いたこと無い物が出てきてつい聞き返してしまった。


「揚水水車っていうのはね、川の流れの力を利用して高い位置に水を運ぶ水車の事よ」

「水を高い位置に?それはすごいな、作り方とかは?」

「そうね作れなくは無いかな、材料さえそろうならだけど」


「報酬は払う、材料も用意する、だから見本を作ることはできるか?」


俺はケイコに頼むと、ふふふと笑う。


「そうね、見本なら小さくてもいいかしら?それなら材料も少なくて済むし、ばらして全体を大きく作ればいいだけだからね」

「ほんとうか、それなら報酬は金貨・・・」

「あー、報酬なんだけどこれだけでいいわよ」


報酬の話をしようとしたら言う前に開いた手を突き出してきた。


「金貨5枚か、それだけでいいのか?」

「ううん、小金貨5枚だけで良いわよ」

「は?小金貨?それはいくら何でも安すぎるだろう、お前の知識量ならいくらでも金を出すやつはいるし爵位や名誉だって欲しいままじゃないのか」

「別に私はね、お金や地位や名誉がほしくてあなたを手伝ってるわけじゃないの、楽しくのんびり過ごせればそれでいいの、そのためにはちょっとだけのお金があれば十分でしょ、お金ならテリヤキソースが売れたらいっぱい入るだろうしね。それにこの領地の人たちは良い人ばかりだしのんびりした雰囲気が居心地良いのよね、だからってのもあるかな」


微笑んでそう言うと新しく入れたお茶を飲み始めた。

そこまで言われてしまうとこちらからもっと出すなんて言えなくなってしまった。


「それじゃさっそく、材料を用意していただこうかしら」

「お、おう、何を用意すればいいんだ?」


紙とペンを持って来て言われた材料をかき込んでいき、それをベックに渡して用意するように伝える。

そしてまた返し切れない借りを作っていくことになるのだった。


材料がそろうとケイコは作業場として貸している離れの小屋に行き、翌日には30センチほどの丸い物とコの字型をした木枠をいくつか持って来た。


「こちらが水車と水路の見本になります、実際に作る場合はこの丸い水車は4メートルくらいで水路は3倍くらいの大きさで作ると良いと思います」

「これが水車という物なのか、そしてこちらの物が水路か」


水車を初めて見た感動より、二枚の綺麗な円板に無数の板が挟みこまれていてその外側には等間隔に付けられた箱状の物を見て、これを一晩で作れるケイコの技術に驚いたことの方が強かった。


「この町には木工職人はいらっしゃるのかしら?」

「は、はい、この町には家具を作ったり家を建てる職人がおります、なのでその者たちに水車の作成を頼もうかと思っております」


俺が唖然として水車の見本を眺めている横でケイコとベックはこの後の予定を話し合っていた。


その後は見本を持って職人の元に行くと、親方や弟子たちがそれを見て固まっていた。


「こ、これを俺たちで作れと言うのか?」

「はい、まずはこのサイズの物を作ってから、実物サイズの作成に入ってもらえばいいかと思います」

「そうか、これを俺たちの手で・・・」


親方はそう言うと新しいおもちゃを貰った子供のように目を輝かせてしばらくケイコの説明を聞いた後、水車を眺めて構造を確認した後、ばらしては組み立てて、弟子たちとあーでもないこーでもないと言い合いながら繰り返していた。

流石にこうなると何言っても無駄だろうと、俺たちは「何かあれば領主館に聞きに来てくれ」とだけ伝え帰って行く。













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