第5話 食材がないなら作ればいいじゃない


ソースが出来上がった翌日から数回に分けて領民を集めてハンバーガー試食会を開催した、そしてレシピは挟むハンバーグの作り方をアリサとベックを助手にケイコが実演して教えていく。ハンバーガーの作り方?そんなのパンを切って具を挟むだけだから教えるほどではない。

ハンバーガーを食べた後というだけあってみな真剣に見て、途中で質問をしてくる者まで居た。


領民全員にハンバーグのレシピが伝わったころに小さな壺に移し替えた秘伝ソースを各家庭に一つづつ配っていった。


「領主様ありがとうございます」「こんな高価なものをくださるなんて、ありがたやありがたや・・・」「りょうしゅさま、ありがとうございます」


一軒一軒まわると行く先々でお礼を言われ拝まれる。

『領民のあんな笑顔を見るのも久しぶりだな』と思いながら、ケイコのいった事は本当なんだなとつい笑顔になる。


「リゲル様どうされました?」

「いや、おいしい物はみんなを幸せにするっていう言葉を思い出してな、皆の顔を見ると実感したというか」

「ケイコ様のお言葉ですね、すごいですよね幼いのに色んな事を知っているなんて」

「そうだな、さて屋敷に帰るか」

「「はい」」


俺たちの会話を聞きながら隣でニコニコしていたケイコが居た。

秘伝ソースを配り終わると俺たちは馬車に乗り込み屋敷に戻る。



「さあ、種は撒いたよ、次はその種を咲かせて実らせる時期だよ」


ソースを配り終わった翌日、ケイコは執務室に現れると次の段階に移ると話し始める。


「ケイコ様、いよいよ料理コンテストの準備ですね」

「ん?いや違うよ?」

「「「え?」」」


まだ料理コンテストはやらないというケイコに俺とアリサとベックは驚きの声をそろえてあげた。


「ソースを使った料理コンテストをやるのではないのか?」


俺はいよいよコンテストを始めると思っていたがケイコの考えは違っていたようだった。


「そうですねー、ではベックくん、料理に必要な物は何ですか?」

「なっ!?」

「ベックくん・・・、ぷぷぷ」


突然ケイコに指をさしながら君付けで呼ばれてベックは驚きと恥ずかしさで顔を赤くして俺たちは笑いをこらえるのに必死になった。


「えっと調理道具ですか?」

「ぶっぶー、ちがいます、もっと大事な物です、次はアリサちゃん答えてください」

「アリサちゃん・・・、ぷぷぷ」

「リゲル様笑わないでください、私だって恥ずかしいんですから。料理に必要な大事な物は、食材ですか?」

「大正解!!」


俺は笑いをこらえながら食材がどうしたんだ?と思っていると、


「料理を作るには食材が必要ですよね、でもこの領地の皆さんは試作するほどの食材を買う余裕はありません、ではどうするか、はいリゲルくんどうしたらいいですか?」

「「ぷぷぷ」」

「おまえらなー」

「お返しですよリゲル様」

「まあいい、食材がなくて買えない、なら作れる物なら作ればいいのではないか?」

「おお、正解です」


俺が答えると拍手をしながらケイコは話し始める。

料理コンテストをやるには食材が必要、でも買う余裕がない、それなら領地の畑で作ればいいのです、という事らしい。


「作ると言っても肥沃な土地などもうこの領地には残ってないぞ」

「無いなら作ればいいのです」

「は?出来るわけがないだろ、そんな簡単に作れるならみんなやってるぞ、それに肥沃な土地は女神様からの恵みなんだぞ」

「ちっちっちっ!それが出来るんだな!!それを今から私がお教えしましょう」


ケイコが顔の前で指を振りながら話し始めたやり方というのは思ったより簡単な事だった。

まずは畑を開墾する、深樹の森の落ち葉の下の土を持って来て畑の土と混ぜる、それだけで肥沃な土地ができるという。

この方法は育ちが悪くなった畑にも使えるという。

話を聞いた俺たち三人は半信半疑だったが、ケイコが言う事ならと信じて行動に移した。


まずは手の空いてる領民のうち、農家の三男以下に声をかけて開墾の賃金は出せないが開墾した畑を与えると約束すると、喜んで集まってくれた。

なぜ三男以下を募集したのかと言うと、長男や次男までなら家を継いで畑を持てるが、三男以下となると継げる畑が無いだろう、だから自分の畑が持てると分かればお金を掛けずに喜んで参加してくれる、というケイコの案だった。


「本当に大量に人が集まった・・・、どうなってんだ?」


実際には簡単に肥沃な土地が作れると伝えていたので、やり方を知りたいと手の空いている長男や次男もちらほらと居たのではある。


人が集まれば後は作業をするだけである、アブドールの町の農地は西から南西でしか作物が取れなかったのでそちらに集まっているが、今集まっているのは草も生えていないような東の他領に続く街道沿いの土地である。


「それではまずはこの土地を開墾して畑にする、畑ひとつの広さはアリサとベックが指定していくので聞いて作業に入るように」

「「「はい」」」

「では作業開始」


俺の号令に集まっていた人たちはアリサとベックの元に行き指示を受けて畑予定地に散っていった。

俺たちも鍬を片手に土を掘り起こしていく。


畑作りを開始してから一ヵ月ほどが経って集まった人数分の畑が完成する、そしてこれからが本番だとケイコが言うと、みんなで西の深樹の森に荷車をひいて土を集めに行く。

森に着くとケイコが落ち葉をどかしその下の土をすくう。


「思った通り良い腐葉土だね、これを畑に撒いたらいい野菜ができるよ」


それを聞いた俺たちは持ってきた荷車に土を積んでいった。

そして東の街道沿い元からある西に広がる農地と同じ広さの農地が誕生した。












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