第22話

 「意味って?」

 そう燈彼に問われ、刀魔は意を決したように燈彼を見つめた。体は強張り口は震え言葉がうまく喋れそうにない。

「あっ二人――」

「俺はお前が好きだ‼」

 ちょうど二人を探しに来ていたブレイブファイア最後の一人、シスターは刀魔の言葉に驚いて止まった。なんて間が悪い。

「そっ……え?」

「好きなんだ‼ 特別な異性として‼」

「そう、なんだ……えーっと。どっ……どう答えれば」

「付き合ってくれ‼」

「わたっわたしも」

 その言葉を聞いて刀魔は目を見開く。シスターは手に口を当てて、つられて体がざわざわしていた。燈彼は下を向いて、体の前で指を絡めて体が熱くなるのを感じる。

「わたしも、わたしも、みんなの事が好きだよ」

「えっ?」

 シスターは凍り付いた。今の告白が燈彼だけに向けられていたのは誰から見ても一目瞭然だったからだ。

「そっそういうんじゃなくて、俺は、俺はお前が好き、なんだ」

 補足するように刀魔は続ける。

 しかし燈彼の表情や仕草、鼓動に反して湧き出た衝動は激しい拒否反応だった。

 なんて気持ち悪い。

 あの時、あの頃、あの時の私を好きになる人間などいなかった。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。なんて気持ち悪い。

 汚い。嫌い。大嫌い。燈彼は自分の顔の皮を引き裂きたい衝動にかられる。

 お前たちなんて大嫌いだ。

 しかしその言葉を言ってしまえば自分も同じになってしまうような気がして、燈彼は言葉を唾と一緒に飲み込んだ。

 私を本当の意味で好きになる人間なんてこの世に存在しない。

「特別好きって、こと?」

 燈彼はねめつけるように刀魔を見た。

「あっあぁ‼ そのっ、特別だ」

 刀魔は悪い人間ではないと燈彼も思う。けれどやはりあの時の自分とは仲良くなれなかっただろうなと思うのだ。見向きもしなかっただろう。

 あの頃の自分が本当の自分。傷ついた自分が何時までも自分を離してくれそうにない。それが一等愛おしい。

「ありがとう。でもね、私達って一応アイドルみたいなものだから、恋愛はできないでしょ」

「それはそうだけど」

「ファンの人も裏切る事になると思うの。だから、ね? 明日は三人で遊びましょう」

「でも‼ でも俺は‼ お前の事が‼」

 刀魔の口から好きという言葉が喉からでなかった。次に拒絶されたら、引いてしまうような気がして、フラれてしまうような気がして口に出せなかった。

 燈彼は空を見上げる。

「今日は疲れたし、帰って休みましょう」

 上手に断れなかった。明日からは少しギクシャクするかもしれない。

 でも、こんなのあの頃に比べれば、なんてことはない。あの頃に比べれば。

 有名になればなるほどに、あの人を傷つけられるような気がして、ただそれだけが燈彼の支えになっていた。

 肩を落とす刀魔を見て、不謹慎ながらシスターは胸をなでおろしていた。

 三人なんて面倒だとシスターは思う。誰に恋人ができてもきっと崩れてしまう。

「明日、駅前集合ね。シスターも一緒。水族館、楽しみ。いいでしょ? 刀魔」

「はぁ……あぁ、わかったよ。でも俺は、諦めたわけじゃないから」

 多分いくら言われても無理だ。無理なものは無理なのだ。

 次に告げられれば本気で拒否してしまう。

 これ、わたしかなり気まずいんだけど、行かなきゃダメかな……とシスターは思った。

 世界の人々が、ほんの少しずつ不幸でありますように。

 そして彼が、世界で一番不幸でありますように。

 燈彼は笑顔でそう願った。

 お前達なんか呪われて苦しめばいい。

 きらびやかな彼女が、呪いの歌を歌っている等、誰も思うまい。

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