第19話
燈彼は会場の席に座っていた。
ごめんね――幼い女の子がいた。
幼い女の子がいて燈彼の隣に座っていた。
燈彼は首を振る。
自分の選択で父を殺してしまった事。母を死なせてしまった事。妹の人生を奪ってしまったこと。それらは誰かのせいじゃない。
「憎んでもいいし怒ってもいいの。恨んでもいいし文句を言ってもいいの」
燈彼がそう呟くと女の子は目を見開いて燈彼を見た。
「我慢しなくてもいいの。もう、十分我慢した」
女の子の手をぎゅっと握る。我慢しなくていいの。寂しい時は寂しいって言っていいし、悲しい時は悲しいって言っていい。苦しい時は苦しいって言っても大丈夫だよって、燈彼は女の子を見た。
驚いた女の子。燈彼を見上げてその顔がゆっくり笑顔へ変わってゆく。
女の子の目から大粒の涙が零れた。そしてかすれ消えて――頭の上に止まっていた蝶が飛び断ち入れ替わるようにミコトが現れた。
「すまんな、いざとなると、会う勇気がなくてな」
燈彼の目の色は濁り、抑揚のない表情へと戻ってゆく。
ミコトは燈彼の隣に座り、だらしなく椅子にもたれかかる。
「生きるも地獄、死ぬも地獄よなぁ。蜘蛛の糸など何処にたれちゃいやしない」
そっと燈彼に頭を寄せる。それは決して寄りかかるという行為ではない。
「本当はさ、解放してやりたったんだぜ。でも方法があんまりなくてよぉ。いつか、呪いを少しずつみんなが引き継いで解放されるはずだったんだ。でもそんなうまく行かなくてさ。みんな呪われるのは嫌だろう? 結局、こんな形になっちまった」
晴らせぬ恨みがある。晴らせぬ憎しみがある。人がこの地に移り住む前よりある大きなうねりのようなものがある。死があり生がある。
それらがどうしようもなくなった時、二人はそれを半分ずつ背負った。
一人は地の底で耐え、一人は外の世界に救いを求めた。
人が増えるほどに呪いは分散され、人々が呪いを少しずつ背負うことで薄まり一人は解放されるはずだった。でもそうはならなかった。
ベンチに座って一人と一柱。
添いながらただ座っていた。
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