魔界限定のお菓子たち
先日のお詫びをしたいと魔王様が言い出した。
「なんであれ、マナを傷つけたことに変わりはない。なにか望みはあるか?」
「ほんとになんでもいいの!?」
もちろんだと目つきは悪いが真摯に頷く魔王様。
「じゃあ、お城の外の街をデートしたい!」
「……街を見たいってことだな」
なぜ、言い直した!?
「わかった。では用意しよう。少し額を貸せ」
シュッと額に文字を描く。あたしの頭にピョコンと猫耳が生えた!手近な鏡を覗くとクロネコの耳が頭についている。ハロウィンの仮装みたいだ。
「これ、かわいいー!」
「喜んでもらえて何よりだ。人間とバレないように術を施した。……まあ、オレの血が入っているから匂いは大丈夫だろう」
匂いとかもあるの?ルドルフが今日はじゃあ、僕はお休みだねと寝床のクッションへ白銀の犬に戻って、欠伸を一つし、眠る。
魔王様はサシャの護衛も断る。危ないと思えば呼ぶからすぐ来いよと命じている。
黒のフードを被る魔王様。
「そんな変装で大丈夫なの?」
「割とわからないものだぞ」
そんなものか……。
街は思っていた以上に賑やかだった。いろんな屋台、様々な異形の者たち、朝と夜が半分の地は少し薄暗く、ほのかな灯りが常に街灯に灯っていた。それが余計に幻想的で綺麗だ。
「彷徨くのは危ないから、オレの行きつけの店に行こう」
「あー、もしかして……」
あたしが言いかけると魔王様は悪戯がバレた子どものように肩をすくめて、ニヤッとした。
「いくら優秀な王であっても息抜きは必要だろ?」
お忍びでよく来ているのね。クスリとあたしが笑うと何故か嬉しそうな機嫌が良い魔王様だった。
「ここだ」
路地裏を2回ほど曲がっただろうか。『三日月亭』と書かれた古ぼけた看板がかけられている石造りのお店があった。
カランとベルが鳴ると中からハイよーと返事をして小人のお爺さんが現れた。
「おまえさんか。久しぶりじゃないか」
「よぉ、ちょっと見せてくれ」
好きにしなと無愛想にカウンターに座って言うお爺さん。
「好きなものを選べ。なんでも買ってやる」
魔王様が太っ腹なことを言う。私はキョロキョロする。中は雑貨屋さんのようで、いろんなものがごちゃごちゃと置いてあった。珍しくてわからないものばかりだ。
「これ、なんだろう?」
丸っこいガチャから出てくるカプセルみたいなものがある。
「これはだな、煙玉だ。こうやって球体を回して投げると煙が出る。色が5色に変わる。逃走に使うもよし、目くらましに相手に投げるのもよし!買うか?」
……使う機会あるかなぁ。
「えーと、こっちは?」
キラキラ光る砂が瓶に入っている。
「振りかけると、物がしばらく光る」
発光する砂ってこと?へえええと眺める。
お菓子の類もある。パッケージはちょっと買う気がおこらないくらいリアルで気持ち悪い絵であるが、書いてある名前は普通なので食べてみたくなる。
「トカゲチョコ、コウモリピーナッツ、三日月型の飴、オバケポテトチップス、ミミズグミ、1つ目のラムネ……ハロウィン的な可愛さね」
ミミズグミはリアルすぎて……ちょっとやめとこ。色々なお菓子を買ってもらう。ホクホクと嬉しそうなあたしに魔王様がクククッと笑っている。
「なんで笑ってるの?」
「いや、お菓子買うあたりがなんだか子どもだなと」
子ども扱いしないでよ!とあたしが言うとだいたい、そう言うやつは子どもなんだよなと魔王様が大人ぶって言う。見た目、あたしとはさほど変わらないが……そういえば何歳なんだろ?聞いたことなかった。
「そうやっておまえさんが笑ってるのはなかなか新鮮だな。子どもの頃から、この男は遊びに来ている」
小人の無愛想なお爺さんがそう言った。余計なこと言うなと魔王様が睨むが、意に介さずカウンターで平然と新聞を手にとって見ている。
長い付き合いらしい。
「普通はアクセサリーとか女はねだるもんだぞ?だけどな、この店、店主は無愛想だが、オレは気に入ってるんだ。小さい頃から通っててな、子供じみてるけどおもしれーもの売ってるだろ?」
「なかなか見たことないものばかりで、おもしろかったわ」
お城に戻ると早速テーブルに出して並べていく。寝ていたはずのルドルフは珍しく、でかけていていない。魔王様と買ってきたお菓子を並べて試食していく。
お菓子が甘そうなので、すこし濃い目のお茶をいれる。
「小さい頃、これが一番好きだったな」
魔王様はトカゲのチョコのしっぽを持って頭から食べる。あたしもひと口噛じって見る。普通の美味しいチョコレートだ。
ちょっと魔界のお菓子はドキドキするわねとオバケポテトチップスを開く。パリッと食べる。これも美味しい。かわいいオバケ型のが一枚だけある。
「なんで一枚だけオバケなの?」
「それが当たった人は一緒に食べていた友達に一つだけ願いを聞いてもらえる!っていうのがあったな。懐かしいな」
コアラのマーチ的な?魔界のお菓子にも遊び心があるのね。そしてあたしはニヤッと笑う。
「じゃあ、あたしの願いを聞いてもらおうかなー。魔王様、あたしの恋人になってください!」
魔王様はいつもなら、笑ったり呆れたりするところだったが、しなかった。
「一年たった。そろそろ元の世界に帰りたくはないか?」
「そんなことないわ。ここが楽しいわ」
「いずれ……いつか帰りたくなる」
確信しているといわんばかり魔王様は言った。
「あたしは本気よ!帰れって言われても帰らないわよ!」
あたしも負けじと意志は堅いと強く反論した。
「人の世界のほうが生きやすいだろう。今ならまだ引き返せる」
真っ直ぐに魔王様をあたしは見て、首を横に振った。そんなあたしに嘆息し、魔王様はポケットからシャランとネックレスを取り出した。
「言葉に嘘や偽りがなく、本気でここに居るつもりならば、これをしばらく身につけてみろ」
「これは?」
「つけていればいずれわかるだろう」
細い銀色の鎖がついたガラス玉の中を覗き込む。中には揺らめく小さな蒼い炎が見える。なんだろう?これは?
ガラス玉の周りには小さく精巧な薔薇の花と蔓の銀細工。
あたしは躊躇いもなく、ネックレスをつける。
「綺麗なネックレスね」
魔王様はなぜか心配そうにあたしを見ていたのだった。あたしが人の世界へ帰るとまだ思われていたのねと少しショックであったが、よくわからないが、これであたしの本気をわかってくれるなら、良いわとこのときは簡単に考えていた。
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