解毒の生姜紅茶

 サシャと魔王様が話しているのを聞いてしまう。


「マナにアレを身につけさせてみた」


「それでいいではありませんか。確認するにはそれが一番早いです。一年、魔王様は待ちましたがわからないままですし、このまま先延ばししても……」


 なんの話だろう?先日もらったネックレスだとは思うが……身につけているが、何も起こらない。


「ルドルフはこのネックレスについて、何か知らない?」


「魔王様がマナに話さないことを僕が言うべきではないね」


 ルドルフも何か知っていそうだが、口が堅いのであった。気になるが、魔王様は説明する気がないらしい。聞きたいなと思っていた矢先、魔王様は部屋に何故か引きこもってしまったのであった。

 

 引きこもって、三日目。心配で部屋の前まで行く。こんなこと今までなかった。

 サシャがドアの前に立っている。


「残念だけど、入れません。魔王様から誰も近寄らせるなと言われております」


「こんなこと初めてじゃない?大丈夫なのかなぁと思って……どうしたの?」


「たまにありますよ。ここ一年はなかったかもしれませんが、割とこういうことは頻繁にあるものです」


 ……手強い。あたしは越えられないサシャの壁を感じて帰るしかなかった。

 しかし!魔王様への愛が試されるのではないか!?サシャの隙をみて……忍び込むのだ!

  

 ルドルフが困った顔をしている。


「やめとこーよー。サシャ、怒ったらめちゃくちゃ怖いんだよー」


 コソコソとあたしは魔王様の部屋の護衛の隙がないか廊下からじーーっと見計らっている。


「サシャは眠くなったり、疲れたりしないのかしら?」


「1週間、飲まず食わず、寝ずでもいけるよ」


「………あたしのほうが無理だわ」


 どうしたら部屋に入れてくれるのかしらとあたしは廊下の角で腕組みしていると声が降ってくる。


「まったく……呆れてしまいます。しかし……まぁ……あなたなら……」


 サシャがブツブツ言いながらドアを離れ、あたしのところにいた。


「あ、あら?バレていた?」


「気配がものすごくバレバレです。まあ、試してみましょうか」


「な、なにを?」


 それは言えませんとサシャはやはりなにか隠しているが教えてくれない。ルドルフは微妙な顔をした。


「魔王様に怒られないかな?」


「ルドルフ……魔王様が怒ったら、二人でなんとかしましょう」


 ええええ!?僕も!?とルドルフが嫌そうな顔をしている。


「しかし魔王様がマナにそのネックレスをあげたということは決心されてのことだと思いますから……」


 ニッコリとサシャは微笑んだ。あたしには何を言ってるのかさっぱりわからないが……。


 こちらへ……と扉と開けてくれる。


「マナしか入れません。頑張ってください。魔王様は今、機嫌が壮絶悪いですからね」


 え!?と振り返る間もなく、扉を閉めるサシャ。


 部屋は暗かった。明かりの一つもない。広い部屋で……魔王様の唸り声がした。


「だれ……だ!?」


苦しそうな……!?これは!?  


「魔王様!大丈夫なの!?」


 ベットの上でうずくまっている魔王様。思わず駆け寄る。大量の汗と苦しそうな声。


「ま……な?なん……で!?」


「どういうこと!?」


 暗闇に慣れると、魔王様の表情が辛そうに歪められていることがわかる。あたしは額に手をあてる。熱い……。


「風邪…というわけではなさそう……もしかして……毒?」


 魔王様は体が強い。怪我や病気などにはならない。だとしたら……意図的にされたこととなる。


「さ…さわるな!なんで……ここに?」


「なぜ、言わないんですか!?少し待ってて!」


 あたしはそう言い、バッと踵を返して、魔王様の部屋から飛び出て、調理場へ行く。


 ひどい!誰があんなことを!?


 ルドルフがあたしの様子に驚いて、いきなりどうしたの!?と見に来た。


 お湯を一人分沸かす。生姜をすって、紅茶の葉を用意。

 そして何より大事なのは集中して………『治したい。解毒したい』その強い思い。


 ネックレスが少し熱く感じたのは気の所為だろうか。しかし今はそんなこと考えてる場合ではない。


 琥珀色の飲み物が出来上がる。

 こぼさないようにお盆にのせて持っていく。


「これを一口飲んでください」


 あたしは紅茶の温度に気をつけて、持っていく。うまく効果が出てるといいのだけれど……。

 

「お茶か……?」


 そっと起き上がる。起き上がるときも体中が痛そうである。お茶に口をつける。


 あたしは効果が出ているかどうかわからず、じっと見守る。


 スーッと魔王様の顔が和らぐ。お茶を飲んでいく。


「これは解毒作用っ!」


「効いてるのね!?良かったぁ」


 ホッとしてあたしは床にへたり込む。魔王様はマジマジとあたしの顔を見る。


「解毒の力を魔族で使える者は少ない。オレの知ってる限りでは一人しか見たことがない」


「その人に助けを求めなかったの?」


 紅茶を飲み干してから、ああ……言う。顔を両手で覆う。あたしはまだ具合悪いですか?と覗き込んだ。


「ん?……そもそもどうやって部屋に入った!?」


 ハッと魔王様はいつもの様子に戻る。


「あたしがどうしても入りたいと言ってお願いしたんです。ごめんなさい。サシャは悪くないんです……」

 

「サシャ!」


 魔王様に呼ばれて部屋に入ってくる。


「良かったです。解毒されたようで……やはり……」


 ギロッと睨む。


「なぜ!いれた!オレの命に反してるぞ、それがどういう意味かわかっているのか!?」


「罰は受けます」


 サシャは床に膝をつく。あたしは驚く。


「それは!あたしが罰を受けるわ!ごめんなさい!あたしがどうしてもと言ったの!」


 魔王様は面白くなさそうな顔であたしにありえないことをいった。


「まさか、マナ、サシャに好意を……?」


「そんなことあるわけないでしょーーっ!」


 庇ったからであろうか?いや、そもそもあたしのせいだし。なぜそんな思考回路に?そんな話を今、してたっけ?


「おまえが思うより、サシャは狡猾だ。ただマナをこの部屋に入れたわけではないな?」


 そりゃそうですよと悪びれないサシャ。ルドルフもヒョコッと顔を出す。


「魔王様、元気になられてよかった!」


 あたしは何か元気の出るもの作ってきます!と言った。魔王様は苦笑した。


「まあ、今回は許すが、サシャ、次はないぞ。オレの命令は絶対だ。逆らうなら、おまえでも許すことはできないぞ!」


「わかっております」


 絶対的な忠誠、相手への支配。力がすべて……本当は目に見えるより厳しい世界なのだろうとあたしは思った。


 




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