ちょ、凛音と同じですやん!

 友和と大門に両脇を抱えられなおも両足をジタバタさせて抵抗する凛音が連れ戻されたのは、午前10時を回った頃。この時間になると海岸と並走する国道の渋滞が激しくなり、また国内外の観光客が多くなるので、事件現場の周辺は人、人、人の入り乱れる様となった。


「現場を離れないでとお願いしましたよね。あなたたちは大人を信用していないのですか」


 野外ライブ会場で部員を待ち受けていたのは、顧問としての顔を持つ角館里子教員による真面目な説教であった。ベージュのサマースーツの里子はその中でも主将の友和に対して厳しく叱りつけた。凛音とエリカが暴走したとはいえ、教員の指示を仰ぐ努力を怠り現場を勝手に離れてしまった事が逆鱗に触れてしまった様だ。


「まったくもう。誰ひとりケガをしていないからいいですが、今後はこのような暴力性が見受けられる事件では絶対、絶対に独断で動かないで下さいね薗川くん?」

「申し訳ないです。以後気をつけます……」

「わかっていただければよいのです。あなたたちに何かあっては親御様に申し訳が立ちません」と里子が教員の顔をしたのはここまで。次第に悪い顔になっていく。


「それじゃあのステージ壊したヤツに、落とし前、、、つけてもらいましょうか」


「ちょ、凛音と同じですやん!」

「……冗談です。でもやっぱりここは警察に引き渡すべきではないですね。先生はあなたたちの意思を尊重します」

 友和は首を傾げる。

「でも里子さん。軽音楽部の方で警察に通報したみたいですよ、まだ来ていないみたいですけど」

 どうすんだよといった具合に友和は肩をすくめた。

「あ~それはですね。警察の方には帰っていただきました、大丈夫ですよ、軽音の小宮山先生には承諾をいただきましたから」とあっけらかんと里子が言うので、友和は小首を動かしてもう一回と催促。

「ですから、現場検証は軽音フェスのあとでという話に落ち着きました」

「……あ、、、そうです、か。ってそんなことできるんですか!?」

「あはは、ま、まあ大人の付き合いはいろいろありまして。今回は特別、ということで」


 管轄の鎌倉警察署長(61)とは飲み仲間で、SKが入手した七里ヶ浜一帯の監視カメラ映像の提供と引き換えに捜査の順番を入れ替えてもらうよう便宜を図ったとは言えない里子であった。


「でもこれは私たちに与えられたチャンスです。期限まで会場を設営して、予定通り、軽音楽部フェスを開催しましょう!」


 ――オレはとんでもない人の下で野球をやっているのかもしれない――


 ひとり勢いづく里子を受け、友和は大人を理解するには経験が足りていないという事をまざまざと知った。そんな中、友和の耳に届いたのは聞いたことのないような高麗川の怒声だった。


「もう一度頼んでみて下さい親父!業者が来れないってどういうことですか!」

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