だってさ、女の子と一緒に野球ができるって最高じゃん!
「というわけで明日は12時に七里ヶ浜海岸集合ってことでよろしく!んで全員で軽音フェス会場設営の手伝いと運営の手伝いをする、以上!」
男子部室に集まったマリン以外の部員の前で、凛音は声を高らかに宣言した。パンツ一丁で手足を拘束された大河を除き、満場一致で拍手喝采を浴びた凛音は窓を勢い良く開け、夜空の月に向かって中指を突き立てて吼えた。そして歌い出す。海外のロックバンドばりに荒っぽくがなる。その凛音の豹変っぷりにくすりとする智美は隣でぽけっとしている高麗川に話しかける。
「高麗川さん」
「ん、なんだい?サトミン」
「軽音楽部の野外ライブ、とっても楽しみですね」
「ん〜コマガワはリーネにさんざん手伝わされてクタクタですよサトミン」
「クタクタなのは高麗川さんの行動力が高いことの証です。なんでも三日間で催しの段取りを取りまとめたとか」
「はっはっはっコマガワは天才ですから……ってのは建前で、実際やったのはコマガワの親父ですよ」
「ふふふ知ってますよ高麗川さん。乗り気じゃなかった軽音楽部の皆さんを説得するためにバイトをして音響機器を寄贈したそうですね」
「う。なぜそれを」
「練習が終わっていそいそと身支度して帰ったら誰でも怪しむものです」
「うう言うなって言ったのにリーネのヤツ〜」
「いいえ佐々木さんは何も言ってませんよ」
「おや?」
「みんなで見に行きました。高麗川さんの働きぶりを」
「ぬわあああああああ」
「あんな笑顔で子供たちと接する高麗川さんは、子ども愛に満ち溢れた聖女さまみたいでとても新鮮でした」
「やめてえええだ、だだ第37564話。墜っつ、オラ天才!」
「子供さん、好きなのですか」
「いやあ好きというか」
「というか?」
「コマガワは将来、児童福祉施設の天才経営者になりたいのですよサトミン」
「まあ!とっても素敵な夢ですよ高麗川さん」
「しかしそれは表向きの相貌。身寄りのない子供を引き取り、幼少より暗殺術を叩き込み世に蔓延る惡の華を摘み取らせる正義のエクスキューショナーを育成する機関『KMGW』の創始者、それがコマガワなのです!」
「ええと……要は施設で立派な社会人になるまで育てあげたいのですね」
「そ、そ、そ、そうとも言います!恥ずかしい!第794話。はっずい!」
「何を恥ずかしがることがあるんですか。できます。高麗川さんならできますよ」
智美は高麗川の手を握ってそう言うと、窓辺でご機嫌に歌唱する凛音のもとへ手を引いて連れて行った。
「歌っているところごめんね佐々木さん。私たちも歌います」
「お、いいねえ智美さんに朱里!それじゃトリオ・メディイーヴァルといこうじゃないの」
「と、トリ……お?」
「なんでもいいんですよ智美さん。こういうのはノリ。ノリっすよ!」
「そうですよサトミン、こういうときはサザ●さんって決まっているのです」
「いや決まってねえから、っておい勝手に歌うな朱里!」
日本で屈指の知名度を誇るアニメ主題歌を歌い出す高麗川に怒り心頭の凛音、智美は邪魔をしないよう輪唱する。楽しそうに歌う智美を見て徐々にほだされた凛音は智美とグータッチを交わしてからやはり荒っぽく輪唱に加わった。
「誰にも、邪魔なんてできるわけがないのよ」
3人が肩を組んで歌う様子を見て、体育座りのエリカは俯き加減に呟いた。見かねた友和は大河の拘束具を乱暴に剥ぎ取るとエリカのもとにやってきて。
「明日のフェスが心配なのかい、姉さん」
「トモか。別に心配とかじゃないわよ。ただね、ウチらの野球って誰のものなのかなって思っただけ」
「聞いたよ、また荒れたんだってね」
「……ねえ、あんたはどうしてウチらと野球やってるの」
「そんなの簡単だよ姉さん」
「え」
「だってさ、女の子と一緒に野球ができるって最高じゃん!」
「……訊ねたウチがバカでした。そうよね、あんたはそうよね」
「いやあでもオレが夢見るハーレム野球はほど遠いけどな〜」
「一応聞いておくけど、何?ハーレム野球って」
待ってましたと言わんばかりに、友和はエリカの前に立って自分を抱きしめるように語る。
「例えば、例えばだよ姉さん。9回裏2アウト満塁3点ビハインドでバッター、オレ」
「あ、もう結構です。オチはわかりましたし、ひと言だけ言っておくわ。ばっかじゃないの?」
「えええ両サイドのアルプススタンドから女子がホームインしたオレの元へやってきてユニフォームを奪い合う所まで聞いてよ姉さ〜ん」
「嫌よ、気持ち悪い。あとでママにいいつけてやろ」
「それだけはやめて姉さ〜ん」
友和の悲鳴をバックに仰向けの大河は部室の天井を見つめていた。そうして頭上で仏像と化していた大門にひとつ訊ねた。
「なあ大門」
「何だ」
「なんで俺、パンイチで縛られてたんだっけな?」
「虚無」
「虚無、そっかあ虚無かあ。それじゃあ誰にも怒れないよなって、、、、、納得できるかあああ!」
「「「「うるさい、大河!」」」」
桜花聖翔野球部の面々は大河にやたら厳しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます