ははは。凛音は美人だからな~

 練習後、男子部室にて。


「くそっなんだよあいつ!ピッチャーゴロって。ピーゴロってなんだよ!ファールで粘れよ、もっと投げてえよ、あっさりしすぎなんだよ、盛り上がらねえんだよ!何もかも中途半端なんだよあいつは」と大河はボクサーパンツ一丁でオーバーアクションを交えて不満をぶちまけた。先程の両者の対戦結果はピッチャーゴロで大河の勝ち、しかもマリンの打球は超ボテボテで大河の前でピタリと止まってしまうほどの死んだ打球だった。そこへまだ練習着のままの薗川友和がフォローを入れる。


「いやいやいや大河、オレはマリンがフェアグラウンドへ打っただけでもすごいと思うけどね。それほど当てるのが難しいストレートだったよ。オレだったら着払いだな」とおどけて言うと、武蔵は顔を青くさせて、「た、大河くん、最後のアレ、150km/hだったんですけど。150だよ150。プロの球速なんですけど。君のベスト更新なんですけど……」


 しかし大河は首がもげる程横に振って、「あーあーあー、そういうことじゃないんすよ。投げていて楽しいって気持ち、あるじゃん?こいつなら全力出さないと失礼って気持ち、あるじゃん?俺とお前の全力がぶつかった時、どんな化学反応が起こるのって気持ち、あるじゃん?」と大河は投手心理の共有をはかるが、ロッカーにいた大河を除く全員が同じタイミングで首を横に振る。


「オレ、ピッチャー嫌いだし」と友和が言えば、「ピッチャーこわい」と武蔵は言い、「我、不器用」と大門が投手否定派で締めくくる。


「な、なんだよお前ら。友和さんだってピッチャーやってたじゃないすか」

「オレ大河がピッチャーやるようになって嫌いになった」

「俺のせいですか!?」

「大河の才能に嫉妬したからさ☆」

「いやそこカッコつけるとこじゃないっすよ」

「まあそうだな。おっと話は変わるけど、キャプテンとして言わなきゃいけないことがあるんよ」

「なんすか急に」


 友和は大河の前に立った。こほんと咳払いをして。


「不安定なマリンへの配慮、そして全力投球をしたこと。本来ならばこのオレの役目だ。代わりにやってくれたこと、礼を言うよ。ありがとう」

「べ、べ、別に、友和さんのためにやったわけじゃないっす。あいつの弟によろしく頼むって言われたから仕方なくやってるわけで、ほんと面倒くさい姉弟っすよ、潮崎は」

「面倒くさいのはお前の方だよ、大河。たしかマリンちゃんの弟って、夏の大会二回戦の鷹葉大学附属にいた双子の片割れだよね」

大地あるすですよ。俺とプレースタイルがほぼ同じの。でもぎゃんぎゃんうるさい姉の方と違っていいヤツだったな〜。あと対戦してめっちゃ楽しかったっす」

「お互い姉さんに苦労させられてたのかな。はははいやなんでもない。そういえばお前ら試合後、仲良く話していたな。あちらの先輩方が泣いている傍らで」

「野球談義してただけですよ。それからあいつ、佐々木の事をかわいいって言ってましたね。中身はアレだからやめとけと釘刺しておきましたけど」

「ははは。凛音は美人だからな~」


 それから4人は座を組んで、なぜ凛音はどんな好投手が来ようとファーストストライクからバットをぶん回していけるのかについての議論になった。性格なのか類稀なる才能なのか、まともに着替えた者はいなく練習着のまま、パンツ一丁に半裸、上だけYシャツとそれぞれ時間を忘れて議論をする。プロテインとレモンを口に入れながら。


「さてとそろそろ頃合いかな」と議論を切り上げた友和は立ち上がった。

「なんかあるんすか。今日の第4試合目、有力校同士の対戦でしたっけ」と大河が呑気に訊く。

「ああいや。そろそろエリカからラブコールがかかってくる頃かなと思ってね……おや」と噂をすれば本当にエリカから電話がきた。待ってました。と言わんばかりに友和は通話をONに。


「はろろー、姉さん。そっちのマドモアゼルの様子はどうだい」



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