頑張ったとはなんでしょうか
マリンは驚きよりも先に予感が的中したといった具合に、抑揚のない返事をして、ゆらりと立ち上がった。ショートボブの髪を耳にかけ、体についた砂を軽く払った。青い瞳の捕手、武蔵が不安そうにマリンを見つめていたが当の本人は冴え冴えとしていた。
「どうぞ海風さん、前へ」
一方で里子はにこやかに促しながらも観察を怠らなかった。武蔵と同じく彼女も捕手出身で、観察眼により心情が著しく乱れ、所作に表れていると感じたらば他の者に代わってもらう判断でいた。皆の前に立ち注目を浴びるマリンの表情は若干冷静さを欠いていたが、里子は支障なくいけると踏んだ。
「少し緊張しているようですが大丈夫ですか、海風さん?」
「え、、、あ、はい、大丈夫です」
「わかりました。それでは潮崎さんにお題、あなたが今週頑張ったこと、皆さんに言っちゃいまshow!」
里子はどこかでゴングが鳴ったようなノリで場を離れ、優しげな眼差しをマリンへと向けた。里子は気づいていない。観察が外れたほんの僅かな間、マリンが武蔵に目配せを送っていたことを。違和感をおぼえたのは、武蔵が金髪をくしゃくしゃにさせて頭を抱え込んでいる所を目撃した時――何があったのか。里子が答えを見出す間に、マリンはポツポツと喋りだしてしまった。
「頑張ったとはなんでしょうか。結果を出した時でしょうか。それとも目標を達成した時でしょうか。もしそうならば私の場合は頑張ったとは言えません。先週の練習試合では、初回に
誰への問いかけなのかそれとも自問自答なのか、区別のつかないマリンの独壇場に淀んだ潮風が吹き抜ける。誰も何も言えずにいるのを見かねた大河が「くだらねえ。降りてぇんだったらとっとと降りろよ灰かぶりのエース様よぉ」と言ったもんだから、高麗川に加えて今度は凛音も加わっての大乱闘。これにはさすがに里子も止めに入るがすぐに弾き返される。混乱の最中、武蔵がマリンのところへ心配そうに歩み寄るも、マリンは帽子を目深に被ってしまい、「ムサシくん、ちょっと岬まで走ってくるね」と逃げるように去っていってしまった。
その姿を大河は高麗川に四の字固めを決められようが、凛音にはマウントポジションをとられ胸ぐらを掴まれ罵声を浴びようが、目線を切らすものかと去り行くマリンを必死に追っていた。
※桜花聖翔学園野球部が取り入れているAI主導の練習システム
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