オパール様の万年筆は春を待つ冬の1日然として美しい
万年筆とは、とかく甘美な道具だ。
ぬばたまが巡る、眼の錯覚さえ心地よく、翠玉に見紛うかそけき筆は、いつか過ごした春待つ1日を想起させる。
何事も起きず、指元が紙片をめくる度、嗜好の喫食が混じる。琥珀の泡のような暮れ方に、似た色彩を喉に通す至福の日。あれこそまさに、紛れもない幸福だった。
当時人気を博していたラテンアメリカ文学で、お気に入りの1冊がある。作者は晩年、その作品を書き上げ分冊で出版することを望んだようだ。
その冊数、実に5冊。家族に残す資産をわずかでも増やしたいが為の願望であったらしい。しかし編集者は作品の完成度と、その特性を見て一括の出版を決した。分冊を望むだけあり、その分量たるや二段組みで800を超える。膨大な頁を有したその書籍は、読む側にも多くの覚悟を要した。主に、支える腕力に対して。
しかして私はその本を愛した。研究者然の登場人物たちが繰り広げる青春群像劇から幕を開ける5章立ての物語は、時を忘れて没頭するだけの魅力があり、若い時分を引き込むだけの筆力を備えていた。
時に刺激的で、ある種の猟奇を孕み込んだその作品は、今もなお私の本棚で意味重く鎮座している。天気良く、息を吸うのが心地よい日などは読むのに絶好の日和だ。
秋は良い。某作を読み返したくなる絶好の季節だ。なだらかで、文章の刺激を受け入れる醸成がなされている。
そうだ、冒頭に話した万年筆で思い思いに感想や気づきを書き留めよう。それもまた読書の一興なのだから。
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