第23話 渓谷

 森の果ては渓谷の窪地となっており、見上げる崖はさすがのドゥークでも登れそうにない。回り道しようにも、遥か向こうの方まで険しい岩場がそびえ立っている。

「困ったな」

 西へ進むにはこの谷を越えなければならない。

「こっちに抜け道があります!」

 ミミが声を上げる。

 見ると、岩場に紛れて入口が分かりづらいが、もともとは川が流れていたのであろう脇道がある。

「ミミ、お手柄ね」

 さっそく皆でその道に入るが、すぐに行き止まる。大きな岩が道を塞いでいる。一番大きなドゥークの背丈の十倍もありそうな岩塊で、とても動かせそうにない。

「もう、なんて邪魔な岩なんですかっ」

 ミミが小さな足でポコンと岩塊に飛び蹴りすると、岩が震えた。

 ――グオオオ……

 闇を切り裂く地鳴りのような唸り声。

 え? どこから?

 おもむろに岩塊が動く。

「違う、岩じゃない!」

 大きな岩が起き上がる。

 森じゅうに時折響いていた唸り声の主は、こいつだったんだ。

 渓谷を塞ぐ程の体長を持つ鳥が、ばさりと翼を震わせる。翼を覆う羽はまるで鱗のように固そうだ。ドラゴンに近い種なのかもしれない。体の下から覗く脚先には鋭利な爪が見え、くちばしは砕けぬものなどなさそうに鋭い。

「きゃああー」

 悲鳴が上がる。

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