第20話 神話

「わっ、わ! 青い星です!」

 兎のミミがぴょこぴょこ飛び跳ねる。旅人ドゥークが倒したモンスターの巣から見つけたものだ。

 ミミも僕らと一緒に隅っこで震えていたくせに、「ミミにください! ミミにください!」とぴょこぴょこうるさい。それで結局ミミがその星を預かることになった。

「やったですー!」

 手に入れた青い星を掲げて無邪気にぴょんぴょん跳ねる。ドゥークやイチハだって星を集めているというのに文句も言わず渡してやるなんて、二人は大人だ。

「これでミミは二個目の星です!」

 もふもふの体のどこから出したのか、ミミの手には確かに二つの星がある。誇らしげに両腕を真っ直ぐにピンと上げてポーズを決めている。

「ちなみにイチハは星を何個手に入れましたか?」

 ミミが両手をイチハに突き出して尋ねる。

「うるさいわねー。たとえ持っていたってあんたには教えてやんない。前科があるからね」

「なるほど。イチハは持ってないってことですね」

 どや顔を向けるミミに、イチハがキーッと悔しがる。女同士ってこわい。

「ドゥーク様は?」

「俺は三つだ」

 あっさり返事したドゥークに、「なんで正直に答えるのよ」とイチハが頬を膨らます。

「三つ!!」

 興奮したミミの声が引っくり返る。

「ミミが二つで、ドゥーク様が三つで、坊ちゃんは一つ。これでもう六つあります! あと一つで願いが叶います! あ、イチハはゼロ個です」

「えっ!」

 僕は思わず声を上げる。

「星って七つでいいの? もっと百個とか千個とか集めないといけないんじゃないの?」

 星はいくつも無尽蔵に湧き出るものだと、確かKが言っていた。とてもたくさんの星を集める者もいたはずだ。そうだ、どうやって集めるって言っていたっけ? 僕がこんなに混乱しているのに、「ナナ、足し算できるようになったね」とイチハがしょうもないことで僕の頭をぐりぐり撫で回す。

「とんでもないですよ! 星なんてめったに見つからないんですから。生涯に一つも見つけられない人だっているんですよ。それを七つも集めるのがどれだけ大変か!」

 ミミが熱弁する。

「なんで七つなの?」

「神話です! 常識です!」

 そりゃドラゴンボー……と、何か言い掛けたイチハを遮ってミミが身を乗り出す。ミミの言葉に、僕はひらめく。

「あ! それって、前にドゥークが言っていた『ミャクミャク』とかいうやつ?」

「そう! そうですよ!」

 この世界の者ならみんな知ってます。ミミも小さい頃から何度も村の大人達に教えられました。


 昔々――

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