第18話 青き光

 漆黒の闇の中、青い星だけが光っていた。僕の掌の上で。

 星から、青い光の筋が伸びる。

「西だ」

 ドゥークが呟く。

「青い光が指す方角を目指すのだ」

「え……、そこに何があるっていうの?」

 掌上にそっと星を抱きながら尋ねる。目指すのだ、と言い切ったのにドゥークは黙して答えてくれない。イチハも青い光の先をじっと見つめながらひょいと肩を竦める。知らないようだ。

「ほ、ほほ、星ですねっ。きっと、青い星どうしが呼び合ってるんですよ! ねっ、そうですよねっ」

 ミミは興奮してぱたぱた耳と手足を動かし、その場でぴょんぴょん跳ねている。

「さあな」

 ドゥークはつれない返事。

「もう、ドゥーク様ったら! そうに決まってますってば! きっと、たーくさんの星があって、皆の願いを叶えられちゃうんですから! ね、貸してください!」

 ミミが僕の手から星をひったくる。すると。

「あれ?」

 先程まで微かに発していた光が完全に消えてしまった。

「なんでえ?」

「こら、勝手に人のものを取っちゃいけません。まったく手癖の悪い兎なんだから」

 イチハが、ミミの手から星を取り上げて僕の掌に返してくれた。

「あれえ?」

 そうしたらまた星から青い光の筋がぼおっと伸びた。

「ちょちょちょ、もう一度ミミに貸してください!」

 ミミが手を伸ばそうとしたところ、夜空を覆っていた雲が去って辺りに星明りがさす。ドゥークが焚き火を熾しなおす。消え入りそうなほど淡い青い光は、それでまたすっかり見えなくなった。

「とにかく西だ」

 旅人が言う。そうだ、もともと西の天文台を目指していたのだ。天文台ならば星のことも何か分かるかもしれない。

「うん、西だね」

「そうね」

「行きましょ、行きましょ」

 夜明けを待って、僕らは出発した。


 向かう先を明確に設定した僕らは、ひたすら西へ向かった。多少の困難なら、道を変えることさえせずに真っ直ぐに進んだ。

 けれどその分、先頭を行くドゥークの負担がいっそう増している。

 力を持たない僕らは、くさむらを切り開く時も、食糧を確保する時も、モンスターに遭遇した時も、いつもドゥークに頼りっぱなし。

 だから、僕もドゥークとともにイチハとミミを守れるように、毎日特訓をつけてもらった。寝る前には筋トレだってするようになって、昨日はついに腕立て伏せを25回もできた。ドゥークはよくできたと頭を撫でてくれた。

 けれど、僕はいまだに獣の一匹だって捕まえたことはないし、モンスターに遭遇すると足が竦んでしまう。血を見るのが怖くって、イチハみたいに獲物を解体することもできない。ミミみたいにいち早く危険を察知して、皆を安全な場所へ誘導することもできない。

 なのに皆、僕が採ってきたキノコに、毒キノコが一つも混じっていなかっただけで褒めてくれる。

 僕も早く早く強くなりたい。いつかはドゥークさえ守れるくらいに。

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