第7話 旅路
僕らは西へ向かった。西には天文台があり、人がいるはずだと。
見渡す限り一面の砂漠。僕はまるで方向感覚が得られないけれど、旅人ドゥークは迷いのない足取りで進んでいく。置いてけぼりにならぬよう必死に足を動かすが、一歩ごと砂に足を取られて思うようにいかない。なかなか追いつかぬ僕の様子に、振り返ったドゥークが声を掛ける。
「気が付かなくて、すまない。やはりその靴だと歩きにくいようだな」
「ううん、そんなことない。ただ、僕がまだ生まれたばかりで歩くのが下手だから」
そう言ったものの、ドゥークは申し訳なさそうな顔をする。僕が歩き慣れていないのは本当だ。ずっと白い部屋の中に閉じこもっていたから。けど、彼がくれた靴が足に合わないのも事実である。とはいえ、日もどんどん高くなってきて、灼熱の砂漠を裸足で歩くわけにもいかない。
「負ぶってやろうか」
ドゥークはそう言ったけれど、僕は首を横に振った。大きな荷物を抱える彼に、これ以上お荷物になりたくない。だから、ドゥークは僕の靴を少しだけ手直しして、少しだけましになった靴を履いて僕らは再び出発した。
ドゥークは真っ直ぐ進むけれど、先程よりもゆっくりと、僕の歩調に合わせてくれているようだった。
申し訳なさとともに、大変ありがたい。
じつは、さっきまでは言いようのない焦燥に駆られながら彼の背中を追いかけていたから。――またひとりにしないで! Kをうしなったことは自分が思っている以上にショックであったらしい。
狼狽した自分が恥ずかしくて、俯き加減で旅人のあとを追う。大きな足跡が真っ直ぐ続く。見失うこともなさそうだ。すこし落ち着いた僕は先行く旅人に声を掛ける。
「ねえ。どこまで見渡しても白褐色の砂漠の景色しか見えないけれど、本当にこの先に目指すべきものがあるのかな」
旅人ドゥークは真っ直ぐ前を見据えたまま振り返りもせず淡々と答える。
「当然だ。道を進めば必ずどこかに繋がっている」
歩みも止めずにそう言った。道ですらないんだけどなあ、と思ったが、野暮なことは口にせず、僕も黙々と歩き続けた。そういえば、彼は本当に星を集めているのだろうか。
いつの間にか、太陽はもう真上に昇っている。お腹が空いたなあ。
ぐうう~~~。
僕の腹が盛大に鳴った。そこではじめて旅人は足を止め、振り返って笑った。
「もう少し行ったら、休憩でメシにしよう」
ぐうう~~~。
顔を赤らめて俯く僕の代わりに、お腹が返事をした。今度は旅人も「わはは」と声を出して笑った。いま、僕の体は間違いなく生きている。
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