第5話 産声

 Kをうしなってから、どれくらいの時間が経ったろう。それともどれ程の時間も経っていないのか。窓もない真っ白な部屋ではそれさえ分からない。

 けれどある日、白い部屋に一筋の光が射した。

 目を凝らすと、何もない壁だった場所にすっと一筋の裂け目ができている。そこから外の光が洩れているのだ。

 裂け目に手を添えてぐっと力を込めてみる。すると、そこから一気に格子状のヒビが部屋全体に広がった。瞬間、亀裂の四方八方から眩しいほどの光が射し込み、目を腕で覆うと同時に「パリッ」と壁が崩れ落ちた。

 まるで卵の殻が割れるみたいに。

 足元の殻は内側の純白からは思いもよらず、外側は赤い。小さく砕けた赤い欠片はまるでたくさんのハートのようで。その欠片にKを感じた。ああ、こんなに近い場所から語りかけてくれていたのだ。

 そうして、自分がKから生まれたのだということと、Kを永遠にうしなったのだということを理解した。

 沸き上がる感情の行き場を見つけられず、ただその場に崩れ落ち、わあわあと泣き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る