第2話 メッセージ
先日、Kから星に関する話を聞いて、興味を持った。
Kによると、掘れば星が沸くような口振りだったが、こちらはどこを探しても星など手に入らない。あのおっちょこちょいのことだから、なにか肝心の説明でも漏らしているのだろう。
そうだ、ずっとKと直接顔を合わせていない。会いに行ってみようか。そう思ったが、ちりっと頭が痛んでそのまま立ち上がりかけた腰を下ろす。最近は体を動かそうとするたび頭痛がひどくなる。そのせいで長らくこのどことも知れぬ白い部屋の中に引きこもっている。
ふと信号をキャッチする。Kからの通信だ。まあこうして画面を介して様子が分かるのだから、わざわざ直接会う必要もないかもしれない。
そういえば、前回はついこちらから通信切断してしまったが、Kにはまだ聞きたいことがあったのだった。
星集めを始めたばかりで楽しくて仕様がないのだろう、恋する乙女みたいにへらへら顔が緩んだKが画面に大写しされる。
「K、久しぶり」
「うん。久しぶりー。よかった、ちゃんと繋がった」
一応、先日一方的に通信を切ってしまったことを詫びるが、「いいよ、そういうこともあるよね」とべつに気にしていないようで、ほっと息をつく。こちらの方こそ孤独な迷い星であることを無意識に気にしていたのかもしれない。再びKと交信することができてどこか安心している自分がいる。
こちらでは星が手に入らないと溢すと、「あらーそうなのかー」と適当な相槌が返ってくる。「じゃあこっちからもきみの方へハート送ったりできないのかなあ」など、あちらも詳しくはなさそうだ。ならばKに訊くよりも自分で調べた方がよさそうだと判断し、この場では追及しないことにする。
「星を集めて、宇宙のなかで煌々と輝いてみせる。その目的は一体何なのか?」
前回聞きそびれた質問をKに投げる。
弔いのために星を集めているのだと、Kは答えた。
Kの信仰によるとこういうことらしい。儚く消えた命たちは、当然その肉体を失い、生ける者と肉体の交感によってコミュニケーションすることは適わない。けれど古来伝わる「魂魄」とか「幽霊」などといったものは、現代では非科学的だと断じられるが、ただ今の科学力では検知できないだけではないのか。
「だから『儀式』や『祭礼』、『祈り』など物質を超えた交信手段が脈々と受継がれてきたのではないか」
「ふうん」
熱弁されるも、スピリチュアルなことには興味がないため曖昧な返事をする。ぼんやり窓の外に視線を遣るが、ここには窓もない。
「物質や音声では伝えられない。けど、電気信号を介せば、そういう『超常的』なものにもメッセージを送れそうだと思わない?」
真っ直ぐな視線をこちらに向ける。だから、「そうだね」と微笑み返してやると、満足そうに頷いた。相変わらず夢見がちだなあ。微笑ましくて緩んだ口元はうそではない。
そのまま持論を展開するKの話を聞き流しながら、画面をスクロールする。Kの集める星はあまり増えていないようだ。
星を集めるためにKが公開しているデータを閲覧する。それらからは懐かしい景色が映し出されて、窓のない部屋から眺めるにはなかなか悪くない。
「前回からあまり公開データが増えていないね。こまめに更新した方が星を得るチャンスも増えるんじゃないの?」
「うん、そうなんだけど。メッセージを届けたい相手とさえ繋がれば、もういいかなって……」
ごにょごにょ言う。大口を叩いていた割には、もう飽きてきたのかもしれない。尻を叩いてやるか。
「真面目にこつこつやっていればいつか皆に届くさ。それまで協力するし。こっちには何もないから、Kがまめにデータ更新してくれれば退屈しなくて、嬉しいんだけどなあ」
「そ、そうかなっ!」
Kがパッと顔を輝かせる。単純だなあ。
「それじゃあ楽しみにしているから。頑張って」
ちょうどザ、ザ、ザ、と画面が砂嵐のように揺れる。いまどこら辺を進んでいるのだろう。
「……ちょうど、電波も…悪くなってきたから、……これで……」
「うん……、じゃあ、またね! ……楽しみにしていて!」
そこで通信は途切れて、Kの姿は消え、ただ白い部屋にひとりぽつんと取り残された。
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