不定期通信

香久山 ゆみ

第1話 星あつめる人

「ひと月前くらいから、星を集めている」

 Kは言った。

 久しぶりに交信したKの声は弾んでいた。恋でもしているのかと思い、からかうつもりで「最近どうしてる?」と尋ねたところ、Kは「星を集めている」とのたまった。

 はて、最近はそのような業種もあったろうか、それともそんなイベントか何かしていただろうか。詳しく話を聞いてみて、なんとなく理解した。

「それにしても、一体どうやって星を集めるんだい?」

 漆黒の宇宙空間に向かって大きな虫取り網を掲げるKをイメージする。そんなわけないのだが。

「星を配る人がいるんだ」

 Kが答える。

「へえ? じゃあ配る人はどうやってその星を手に入れたの?」

「もともと持っているんだよ」

「選ばれし者なのかな?」

「ふふふ。いや、皆もともと星を持っているのさ」

「いくつ?」

「いくつでも。無尽蔵に」

 分からないことを言う。

「皆はなから星を持っているのなら、わざわざ集める必要はないのでは?」

 こちらの真っ当な疑問に対し、いや、とKは画面越しに首を振る。

「持っているのは星の卵のようなもので、それは自分の手元では光を放たないんだ。誰かに与えることで初めて光を放つ」

 ふうん、とりあえず相槌を打つ。

「ええと、そもそも何のために星を集めているんだい?」

 換金できるのだろうかと、下世話なことを考える。案に反した答えが返ってくる。

「自分の星を輝かせるため。我々迷い星は自らの力だけでは発光することができないから」

 そう言ってキラキラした瞳をこちらに向ける。「なるほど」とだけ答える。

「配るための星が無尽蔵にあるのなら、互いに配りまくれば、あっという間にすべての星が輝いてWIN‐WINなんじゃないの?」

「そういうことじゃないんだよ」Kが息を吐く。

「そこに哲学があるんだ。各々理想とする宇宙地図を持っている。なるべく多くの星を輝かせたいと思う人もいれば、青い星は好きだけど赤い星はなるべく見たくないという人もいる。とくに自ら星を集めず配る専門の人にとっては、どんな星に光を与えたかというのがアイデンティティにもなるだろうね」

 それだから一つとして同じ星はないんだ。Kの鼻息は荒い。

「自分では星を集めずに、配ってばかりの人もいるのかい?」

「うん。遠くから眺める富士山が好きか、登ってみたいと思うかの違いだと思う」

 えらく古典的な例を示す。それで、Kはいま登山口に入り一合目といったところか。

「まだ始めたところでよく分からないけど、充実はしてるかな。全然星は集められないけど」

 こちらでも画面をスクロールしてみる。確かにKが未だ掌に収まるほどの星しか集めていないのに対して、すでに数千の星を集めるランカー達がいる。

「誰彼構わず配られるのでなければ、どうやって星を集めるんだい?」

 はじめの質問に立ち戻ってしまった。

「この広大な宇宙のなかで、まずは存在を見つけてもらう必要がある」

「どうやって見つけてもらうの?」

「そりゃあ漆黒の宇宙に光を放つんだよ。星を集めて」

 とんちみたいなことを言う。

 ごにょごにょ夢物語みたいな説明を続けるKを無視して、開いた画面内を探索する。

 と、おや? 星以外にも配っているものがあるではないか。Kの口からはこれに関する話は出てこなかった。尋ねてみる。

「星以外にも、ハートを送ることもできるようだね」

「……ああ、うん……」

 始めたばかりで使い方よく分からないんだけど、と歯切れが悪い。見たところ単純に、他者へ存在を認識したと示すようなものだと思うのだが。

「Kは、ハートを送ったりはしてないの?」

「……うん。だって、メールとかでも気軽にハートを付けたら相手を勘違いさせるっていうし。……ハートは本当に好きな人のために取っておくんだ……」

 頬を赤らめもじもじくねくねするKを放置し、そっと通信を切断した。……確か、奴もいくつかハートをもらっていたはずだが、一体どう受け止めているんだか。頭痛がしそうで考えるのはやめにした。

 願わくば、この通信が傍受されていないことを祈るばかりである。

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