足りない

「ごめんね。本当にごめん」

「あいつら殺したい。殺してもまた殺したい。でもそれだけじゃやだ。足りない。耐えきれない。死なせないで殺したい。殺し続けたい」

「うん」

「うんじゃないでしょ……」


 号泣する妹からは、それでも穏やかな森林の香りがした。


 妹の言う通り、私と彼女は全然違う。妹は強い。自分のことを第一に大切にできる、天性の才能の持ち主だ。一方の私は弱くて汚い、卑怯者だ。どれだけ自分がやつれて傷ついても、何かが守れているならばそれでいいと、守るものがない今だって考え続けている。


 どっちのほうが幸せ者なんだろうと、何度も何度も考えてきた。しかし毎度、分からず仕舞いだ。これも考えに考え抜いた末の結論というわけじゃなく、「どんぐりの背比べかぁ」という発想の転換であるあたり、やっぱり私は、逃げてる卑怯者なんだろう。更に「逃げてるんじゃなくて事実だから」なんていう予防線をこっそり準備しているあたり、とうとう大概にしないといけなさそうだ。


 そしてまた、大概にしないといけないということ自体は重々理解しているんだよと内心確かめるように繰り返しているあたり、本当に救いようがない。

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