第14話
結論から言えば、あれ以降、我々の世界に『ミズカラ』たちが現れることはなかった。しかし、各所の洞窟は今でも存在し、一定数の若者が『呼ばれ』続けている。
「大場さん、今『呼ばれ』てるのは六名。ちょっと多いんで、梶と白井だけじゃなくて、僕と池下も参戦します」
松井の言葉を聞いて、私は資料に目を通しながら首をひねった。
「アシストが四人なのね。誰かが錯乱した時にフォローする人員がいるわ。もう一人欲しいわね」
「そうですか?」
「ええ。この前は三船さんに動いてもらったから、今回は森藤さんに依頼してみたら?」
松井は素直に「そうしてみます」とうなずく。
私は松井らと共に、洞窟に『呼ばれ』た人間を救うため、日々奔走している。
国の調査は瓦解した。すべてが港青年任せだったため、調査計画や使用機器を誰も把握できていなかったのだ。それに、隊をまとめる人間も残っていない。
結局、洞窟は各地域が自治することとなった。もちろん、地域間に差があるため、ノウハウのある地域――つまり、私たちの地域や、桜庭さんが権蔵さんと出会った『島』――ができるだけの手助けをしている。
結局、レジスタンスが目指していたとおり、『水脈』の解明ではなく、青少年を救う方法の確立に焦点が当たっている格好だ。さらに、君野梨歩を中心として『ミズカラ』に入り込まれた人間の『学び直し』についても研究が始まっている。これには私の恩師とも言える古井教授をはじめ、近藤さんや栗原さん――旧姓遠藤さん――といった、臨床経験豊富な心理士たちが携わっているようだ。
私の電話が鳴る。君野梨歩からだ。
「大場さん、今電話しても大丈夫ですか」
「ええ」
「カメラボールのシステムを、三台ほど回復できたんです。今日、一度『水脈』に落としてみようかと」
彼女は、『水脈』で桜庭さんを見つけようと躍起になっている。そのために、港青年の遺したシステムを活用できないかと模索中だ。
激励の言葉を口にして、電話を切る。もうすぐ夜が始まる。
レジスタンスは闘いに出るだろう。そして、多くの人間をクリアへと導くはずだ。
君野梨歩も、『水脈』の調査に向かうだろう。うまくいけば、桜庭さんの足取りをつかめるかもしれない。
そして私は、彼らの無事を祈りながら、いざというときに出動できるよう準備しておく。傍らに水の入ったカップを置いて。
私たちは――「呼ばれた者たち」。
呼ばれた者たち3 葉島航 @hajima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。